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カンカンカン、と
鉄のぶつかる耳をつんざくような音をたてながら、骨組の補強のため島の人たちが作業している。

カタクリさんが、淡々と彼らに指示を出したりしていたが、私の顔を見下ろしたときはストールの下に微かに怪しい笑みを零して目を細めた。

「見ろ、戻ってきただろう」
「……」
「“行かないで一緒にいて”」
「……大っ嫌い!!」

憤慨して赤くなる私に、特に表情は変えずに作業をする人たちに指示を送り続けている。

「“大好き一緒に逃げよう”……傑作だな、」
「ちょっと偽装工作しないで!そんなこと言ってない!」
「そうだったか…いや、言っていただろう」
「言ってません!カタクリさんの妄想です!」

このままここにいたら血管をぶちぎって憤死してしまいそうだ。
怒りにまかせてその場を後にしようとしたら、カタクリさんの長い腕が、ぐっと私の肩を抱き寄せた。

「そういう風に聞こえた」
「…………っ」

低い声にぞっとする。
どうせまたいつもと同じ顔で笑ってる、と思って見上げたのに、いまは笑ってない。
静かな、きれいな顔をしてるから、ずるい。そんな顔するなんて。

ずるいし、最低だ。女たらし。
でも、女の人に興味なさそうだけど。
なぜか、私にだけはちょっかいかけてくる。
はぁ…そういうところも、
ずるい。

「なぁ、本当のことを言ってみろ」
「………っ大…………」
「あぁ?」
「………」

 はい。
 大好きです。

とは言いづらい。
どうせ冷やかされるのだろうし。

だが、こうして平穏は万国に訪れた。
私は日常に戻るし、カタクリさんも次期船長と期待されている以上の腕前で国の立て直しをやり遂げて見せるのだろう。

「…言ったら、私の言う通りにしてくれるなら、言います」
「なんだ、面白いことだったら考えてやってもいい」
「あのね……」

生活も精神状態も万国も、なにもかも元に戻った。

戻したくないのは、ひとつだけ。


 こんどこそは、ずっと、
 私と一緒にいてね。


(………とはやっぱり、言いづらいなぁ……。)





見えない壁を叩いたって