tiimalasi−最愛−
side:なまえ
『 人に見返りを求めてはいけない。』
『 はじめから求めなければ、
誰かを憎むことも蔑むこともない。』
『 それが生きて行く上で一番大事なことだ。』
そう教えてくれた��最愛の彼�≠ヘもう私と共に同じ人生を歩むことはない。
大学に入り、好きな人が出来て、両足が事故の影響で不随になり、社会に出て��三井家�≠ニいう家族を得る間際のときだった。籍を入れるほんの数ヶ月前。その最愛の彼、三井寿の前にひとりの女性が現れた。
真っ黒で綺麗な澄んだ瞳。真っ直ぐで芯のある眼差し。彼女と「初めまして」で目が合った瞬間あ……��彼�≠ノ似ていると。そう、無意識の中で思って、心がざわついた。
彼を見る彼女の瞳の中には、動揺して逃げ場を失い一気に暗闇の中に迷い込んしまったかのような絶望の色が見えた。けれど彼が彼女を見つめる瞳の中には��愛おしい——�≠サの感情が、色濃くはっきりと映し出されていたのだ。ゆっくりと、スローモーションのように一度瞬きした彼の瞳がそう強く語りかけていた。
『——ただの幼馴染だよ』
そう言った彼の言葉の裏側に��会いたかった�≠ニ言う想いが隠されていたことを、きっと彼女は知らないだろう。
彼がリビングで何の気なしに見ていた湘北高校バスケ部員のインタビュー映像。週刊バスケットボールの記者からの質問で生徒たちは『今、会いたい人』という質問を投げかけられていた。その生徒らが名を連ねるのは有名なバスケットボールプレイヤーであったり強豪校のルーキーやエースであったり。そんな中で記者の中村さんが彼——婚約者の寿にも、同じ質問を振ったのだ。
『ちなみに三井監督の会いたい人は?』
『へっ?会いたい人ですか?あ〜、どうすかね』
『昔、一緒にプレーした仲間、とか?』
『あ……幼馴染ですかね、ドジが得意技の。』
あのはに噛んだキラキラとした笑顔はその��幼馴染�≠ノのみ出すことの許される彼特有のキラースマイルだった。私はあんなに眩しい笑顔を見たことはなかったよ。
それでも彼はずっと優しかったけれど私を責めることなんて一度もなかったけれど。私の意見を最優先してくれていたけれど……彼女と再会したときに見せたようなあんな瞳で私が見つめられた事はただの一度だってなかった。だからこそ——
『全部、初めてだったんだ』
『誰かをすげー好きになったのも情けないくらい臆病になったのも全部』
『もしこの先なにがあったとしても俺、あいつのことだけは、絶対一生忘れられねぇ 』
『俺にはあいつしかいねーんだよ。今も昔も……ずっとな』
私がしっかりと五体満足——二足歩行で歩いていたとき最後に聞いた、彼からの台詞だ。
……あ、この人だ。すぐにそう直感で感じた。こういう感は、昔からよく当たるほうだ。
あの恋文にも似た台詞の物語の主人公がいま、私と彼の目の前に立っている。そう、思った。
彼が欲しかった。彼の、一番になりたかった。小さい頃から欲しい物ならなんでも手に入った。物でも環境でも、そして人でも。初めてだった。手に入らないモノと出会ったのは。だから、なんとしてでも手に入れたかった。はじめはそんな、私の傲慢な我が儘からはじまった恋だったのに。気が付いたら本気で夢中になっていた。
彼の人柄が好きだった。弱者を放っておけないお人好しなところが好きだった。
ただただ、三井寿が好きだった……。
責任感だけの行動だとしても足が使えなくなってから、ずっと世話を焼いてくれていた事に気をよくした私は周りの囃し立てる声を鵜呑みにしていい気になっていたんだと思う。既にこの頃からリハビリをするのに、手を抜いていたのだ。
あのとき彼が側にいてくれなかった未来があったとしたら、きっともっと、早い段階で私の足はちゃんと、歩けるようになっていただろう。私はいつも見返りを求めてばかり。だから罰が当たったんだと思う。
結局のところ私は彼と共に歩む人生を得られなかったのだ。それだけではない。彼の人生の貴重な時間も私自身の人生の貴重な時間も無駄にしたも同然だ。
家族以外の人で、こんなに人を愛したことも、家族以外の人で、こんなに人から大切に思われた事も初めてだった。だからこそ自分自身の贖罪。そんな��最愛の人�≠フ��
幸福
(
しあわせ
)
�≠�最優先にしようと思い立ったのだ。それと引き換えになら、私の足が一生歩けないままでもいいとすら思えた。
どうしてここまでして、どうして今更になって愛する彼を手放そうと思ったか。それは——その最愛の彼が��彼女�≠ニ再会してからというもの、毎日のように苦しみ、訴えていたからだ。
�� 後悔している ��
……と。その想いが日々、抑えきれずに、溢れ出ていた。はじめてだった。私の事故が起こってから。よくここまでその想いを隠して生きてこれたなと感心してしまうほどに。
彼から笑顔が消えたのも、この頃からだったと思う。だから私は決断した。紙切れ一枚で制約が交わされてしまう��結婚�≠ニいう名で、彼を拘束してしまう前に。もう充分だ、って。手放そう、彼の前から、姿を消そうと——。
一度も彼は私に触れてきた事などない。けれど触れてくれなくても良かった。ただ、彼がそばにいてくれるだけで、それだけで私は
幸福
(
しあわせ
)
だと思い込んだ。
彼からの愛は、私の望む愛のカタチではなかった。それでも私を一番に優先してくれて優しさという名のアイノカタチを注いでくれた彼の幸福を心から願っている。
だから最初で最後。今だけは最愛の彼の温もりをもらう事を神様どうか、お許しください——。
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