��片思い�≠チていうのは、本当につらい。
胸がきゅっと苦しくなって、好きで好きでたまらないのに、振り向いてもらえなくて。
けど、その人が喜ぶ顔を見れるなら、どんなにつらくても、頑張れちゃうんだよ。
ねえ——。
君ならきっと、わかってくれるよね?
*
部活終わり珍しく「手、繋ぎたい」と、私から言った。だけどこんなに素直に答えてくれるとは思わなかった。私の幼馴染兼、恋人は今流行りのツンデレってやつだし。まぁ、嬉しかったのは、本音だけど。
「……なんだよ、ニヤニヤして。気持ち悪ィな」
実際ちょっとだけ赤い顔をして私の幼馴染は、ひどい事を平気で言う。そのくせ嫌そうな素振りを見せないのが素直と言うか彼らしいとも思う。
「いいじゃん、別ににやけたって。嬉しいんだからさっ」
私は繋いだ左手に力を込める。ちょっとだけ、ビクッとした彼を可愛いな、なんて思ったことは死んでも本人には言えないけれども。
「……嫌なら、振りほどいてもいいんだよ?」
「……」
しばらくしてから彼はモゴモゴと何か呟くと、ふいっと横を向いてしまった。まったく、本当に可愛いヤツなんだから。
「なに?寿。聞こえなかった」
「——じゃねぇ」
「えっ?」
「だから……!嫌じゃねェって言ってんの!」
ああああ〜!!もう、あなたは私をキュン死にさせるつもりか、ちくしょう。
寿の手は暖かくて、彼の熱がそのまま伝わって来ている様だった。心なしか、耳も赤いし。
何て言うか、その、いわゆるアレだ。頭隠して尻隠さず、みたいな状況。もう……可愛すぎるでしょ。おっと、ちょっと調子に乗りすぎちゃったかな。落ち着け落ち着け、私。
「——つか、調子乗りすぎなんじゃねー?」
「え?」
「おせっかいもほどほどにしとかねーと、あとで痛い目見るぞ」
「……?」
「限度が、あるんじゃねえの?」
急に声のトーンが低くなったのでちょっと不審には思ったけれどきっと帰り際にリョータくんを揶揄った事でも言っているのだろうと、私は特にテンションダウンもせず、いつもの調子で言葉を返す。
「ああー、さっきの? うん、まさかショックのあまり、気絶しちゃうとはねー」
「……」
「でも確かに。調子に乗った、明日謝るよ」
手を繋いだままでクスクスと笑う私をじろっと見下ろす彼と目が合った。私は「ん?」と小首をかしげる。そんな私を流し見て正面に向き直った彼はハァ〜とあからさまな溜め息を吐き出した。
「バーカ、そーじゃねぇって」
「へっ?」
「水戸。」
「水戸?——って、水戸くん?」
「ああ……。水戸って、女いるんじゃねーの?」
「え……水戸くん、に?……うそ、」
「知らねーけど、多分」
そう言って寿は、そっと繋いでいた手を離して両手をズボンのポケットの中へとしまい込んだ。そうして、もう一つ小さく溜め息を漏らす。
「たぶん、って……」
「あんまアイツのこと褒めたかねーけどよぉ……モテるくせして噂のひとつも立たねーだろうが」
「……」
「よそに本命がいるって、あれは」
「そ……そんなの……」
ドキドキしていた心臓の音が徐々にドクドクという音へ変わっていく。不意に生まれた緊張感。
隣を歩く寿は、チラッと私を一瞥してからボリボリと、人差し指で後頭部をかいていた。
「よくアイツと一緒にいる女、知ってんだろ?」
「よく一緒にいる、女?」
「あの女の気持ち知ってて、お前も応援してたんじゃねーのかよ?」
「……」
「まぁ第一、そばにあの女がいんの気づかねーで水戸とくっちゃべってんだから、世話ねーよな」
「え……」
「そもそも彼氏いんのに男との距離感バグってんだよ、おめーは。こっちの身にもなってみろい」
「……、」
おかし、かったんだろうか。そりゃあ確かに、高校生にもなって��男女の友情�≠ネんて成立しないものだっていう一般論くらいは私にもわかる。
「お前のよ、その間抜け加減でも応援してるってんなら——」
「……何よ?」
「はぁ……。あの女にとっちゃあ、どっちにしろ虚しいだけだぜ?」
「……。」
水戸くんと普通に話して、というか同じ年頃の男女が同じ空間に毎日、何時間もいて。我ながらイエーイみたいに、友達たくさん!転校してきてよかった!楽しい!みたいに、呑気に内心思っていたけれども。
「めんどくせーことに巻き込まれる前に距離感、考えろよ、もう少し。ガキじゃねーんだから。」
「……」
「……ったく。くちびる尖らせてる場合かよ。」
「なっ……!」
「勘違いすんなよ?こりゃあマジの、忠告だぜ」
「えっと、嫉妬してるって勘違すんなって事?」
「——っ! わかってんならいちいち聞くな!」
だって、しょうがないよ。私の周りは全員同じ宝物があるじゃない。��バスケット�≠チていう、宝物にして、絶対に切れない強い繋がりが——。
その中でもバスケに無縁で同じ高校に通っててこういう因果で出会ってしまった以上、これからだって、そうやっていれるなら水戸くんとはいい距離感でいようと私は思ってたよ。水戸くんは、きっと、思っていないだろうけど。
『 限度が、あるんじゃねえの? 』
響く——寿の言った、その台詞が。響かなくていい。さっさと忘れちゃえばいい、それが正解。私は、ぎりっと奥歯を噛み締めた。
「……むなしくなんか、ない」
「あ?」
「彼女がいたって、関係ない」
「ハァ……わかってねーなぁ」
「わかるもんっ!」
立ち止まって声を張った。少し先を歩いていた寿も立ち止まり、こちらを振り返る。目があう。彼は目を見開いた後、不機嫌そうに眉を歪めた。
「好きだったら、一緒にいられるだけで、幸せだもん!些細なことでも嬉しいし楽しいし、それで充分だもん!」
「……」
「むなしくなんかないよ!」
恋っていうのは言葉では説明できないんだよ。『あぁ〜、雨が降ってきたなぁ』とかさ、誰かに言いたくなるじゃん。そういうことを言える相手って、好きな人だったりするじゃん。
たとえ、そばにその好きな人がいなくたって、心の中でその人の面影を描いたりして『今、雨が降ってきたよ』って空を見上げたら幸せな気分になるんだよ。そういうの誰にだってあるでしょ?
私はずっと、そうやって寿の事を想って生きてきたよ。もう、何年も何年も前から……。
「……」
「そりゃーおめぇ、自分のことを言ってんのか?それともあの女の気持ちを代弁してんのかよ?」
「はぁ……?」
「まるで、お前が水戸のこと好きだって言ってるように聞こえるぜ、俺には」
「——! わかってないのは、寿の方だよ!!」
私は、寿を追い越して走り出す。バカみたい。こんなことでムキになるなんて。結局、さっきの寿の言葉を全て忘れることが出来ずに気にしてる証拠だ。
「なまえ!」
「ひやぁ!?」
思わず、素っ頓狂な声が出てしまった。原因は人目もはばからずに追いかけてきた彼からバックハグの洗礼を受けたからだ。
彼はそのままの体勢で、私を背後から強く抱き締める。抵抗しようとしたけれど普段の馬鹿力が自分でも思い出せないくらいに、弱々しい抵抗になってしまった。
「ちょっ、寿っ! は、離して、恥ずかしい!」
「好きだなまえ」
「へ……っ!?な、なにっ?」
「悪かった、好きだ」
「……っ」
彼は、私の首筋に顔を埋めながら言った。この言葉を言うのも今となればもう何度目になるのかわからないけど。
『自分の気持ちや想いは、言葉なんかじゃ説明し切れない。それでもなまえに、伝えたい。』
彼は、陵南戦のあと、確かにそう言っていた。耳元で何度も告白を繰り返す幼馴染の声に私は、しっかりと耳を傾ける。彼の不器用な愛情にややくすぐったさを感じながら……。
「なまえ、好きだ。」
「………知ってるよ。」
私は暴れるのを止めじっと彼に抱かれている。ぼそぼそと相手が喋る度に、吐息が耳に懸かって彼をそばに感じた。
「知ってる。寿が私を好きなこと。知ってるよ」
「……ああ」
「私も、寿が好き。」
そう言って私は、寿の頭を腕で優しく包んだ。彼は壊れたステレオコンポみたいに、同じ言葉を繰り返していた。
こんな甘くて不器用なやり方なんかじゃ私へのあなたの想い全部が、伝わるわけないのになぁと思いながら。もっと『好きだ』と言って欲しいと願いながら——。
——好き。好きだよ、寿。大好きだよ。うん、私たち、普通に順調だと思う。
��待て�≠ェ、できない私の
ペット
。
(——ちょ、っと! もう離れて!)
(うるせぇ。もうちょい、このまま)
(だ、だって、みんな……見てる、よ?)
(見せつけときゃいいだろ。この微笑ましい姿をよ)
(う、うわぁ……出た、ポジティブお化け)
(あン!?)
(うおっ、待て待て、ヨシヨシ。)
※ image song『 ミライチズ/夜のひと笑い 』
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