「桜木くんって身長なんセンチ?」
「えっ!?し、し、身長ですか?」
「手も大きいんだねーっ!」
「私と手合わせてみてー!」
「ふぬっ——!?」
クラスメイトや他のクラスの女子から声をかけられている最近の桜木くん。バスケ部での活躍もあり、急激に人気者になった彼の周りには、入学当初は想像もしていなかったような人集りができている。今ではこんな光景も当たり前になりつつある今日この頃。
「なんでぃ、花道ばっかり。美味しいとこ持っていきやがって〜」
「花道のヤツ、さらに認知度あがったよなぁー」
軍団が水戸くんの席に集まってあえて桜木くんに聞こえるようなボリュームでぼやいている。
それを微笑んで保護者のような雰囲気を纏って見ていた水戸くんが言った。
「まあ、これもぜんぶ、晴子ちゃんのお陰だろ」
赤木さんのおかげ——。そういう軍団だって、今や、普通に男女問わず同級生と会話をしている姿を、廊下なんかで見かける気がするけど……。
「違いねーや。そんな晴子ちゃんには振り向いてもらえてねーけどな!」
「ガハハハハっ!」
もちろんそれは、水戸くんだって同じだ。最近では体育の時間や放課後、昼休みなんかに見慣れない女子生徒から声をかけられているのを、私はしっかりと、この目で見ていたから。
「バスケもいーけどよぉ、そろそろフラれ記録を更新してほしいもんだぜ」
「目指せ!ギネス記録っ! ってな!」
「そうだ!あんなん、いつもの花道じゃねえ!」
「……ま、いーんじゃねーかァ」
水戸くんが椅子に座ったまま机に頬杖をついて女子と話している桜木くんの方を見やる。残りの軍団は、自然と視線を水戸くんの方へと向けた。
「フラれて泣いてるより、笑顔の方がアイツには似合ってるよ」
憂いたような目線の先にはやっぱり桜木くんがいた。羨ましいなと思った。あんなに、やさしい視線を向けてもらえて、大切に思われて。それはあの、二年生の先輩にも言えることだけれども。
水戸くんから、あんな優しい視線をもらうにはいったいどうすればいいんだろう。誰か、教えてほしい。
——だ ん っ
「なに調子こいてんだよ!」
「テメェ、彼氏いるくせに何股かけてんだよ!」
——実況中継、24時。
水戸くんたちの会話を聞き捨てて、移動教室のため廊下を一人で歩いていたとき、隙をとられて女子トイレに連れ込まれる事態。
「マジ意味わかんないしー。キモ!」
「レイプ野郎が好きなんでしょー?そういう癖?あはは!どんな趣味だよ!」
このあいだ私に声をかけてきた元々は友人だったはずのクラスメイトの女子たちだった。なぜ、どうして……。
入学してから、まだ三ヶ月足らずのこの私に、いったい何が、起こってしまったんだろうか。
*
——急遽、担任の気分で行われた席替え。ガタガタと自分の机と椅子を運ぶ生徒達。私もそれにならって机を運んでいるときのこと。
「ねぇ、水戸。——あっ、水戸……くん?」
「ん?」
「俺さ、花みっちゃんの前の席になったんだけど替わろうか?」
「へ?なんで」
「だって二人、仲良いしさ……」
「あー......いーよいーよ、別に。ありがとなっ」
「え......いいの?」
水戸くんは浅く笑った後、机を持ったままそのクラスメイトに振り向きざま、軽い口調で言う。
「まぁ、近すぎっと見えねーもんもあっからさ」
とっても、綺麗な横顔だった。きっと男子でも悶えたはずだ。現にその男子は、ぽ〜っとして、固まっている。それなのに水戸くんは、この期に及んで、こう吐き捨てる。
「てか、呼び捨てでいーぜ?��くん�≠ネんて付けなくても」
「えっ!あ、じゃあ……み、水戸。」
「ははは、そーそー。それでいい。」
普通にクラスメイトと会話している水戸くんを横目に私は廊下側の席に移動する。桜木くんは、どうやら今までと変わらない席らしい。いいな、窓際の一番後ろ。桜木くんって強運の持ち主だ。そもそも、水戸洋平という親友がいるんだ、強運の何者でもない。てか、先生のことシメたりしてないよね?……なんて。
あーあ、それにしてもさっき……めちゃくちゃかっこよかったなぁ。てか、みんな普通に仲良くやってるのに、どうして——。
——ば っ し ゃ ん!
——実況中継、24時。パート2。
休み時間、頭から勢いよくバケツの水をぶっかけられる。まったく、意味不明はどっちだよ。
しかしここでハッとした。別に水をかけられて目が覚めたわけではないけれど。
みんな、水戸くんと仲良くしたいだけなんじゃないのかなって。できないから初めに仲良くなった私に嫉妬してるのかな、って。我ながら呑気な脳みそだ。ああ、それでも。なんで。どうして、私ばっかり、こんな目に——。
「何さっきから黙ってんの?びびっちゃった?」
「ダッサ! お前、もう学校来んなよ!」
こんな底辺に言ったところで話なんか通じないだろうから言わないし、反論もしないって決めたけど……もしかして、この二人のどっちかが水戸くんのことを好き——という可能性は?
まあ、どうでもいいか。どっちにしたって単純に、嫉妬されて妬まれて、いじめの対象になった私ってマジで可哀想すぎる。神様、そんなに私がお嫌いですか……?
「水戸洋平のどこがいーの? ねえ、教えてよ」
「てか、もうヤっちゃってんでしょー?彼氏いる分際でさぁ」
もう、意味わかんない。なに?なんなの……。目の前で、知らん先輩と仲睦まじくしている姿を見せられたばかりなのにその上この仕打ちとは。そうなんだ、きっとそうなんだ。水戸くんの事が好きなんだね、そうなんだ。
「……水戸くんのこと、好きなの?」
「はっ!!?」
もう嫌だ……。この世に神も仏もあるもんか。水戸くんと仲良くできないからって私に当たってくるんじゃないよ、いい加減にしてよ。言いやすい人にだけ強く当たるなよ。こっち来いよ、私が殺してやるよ——!って、言ってやりたい。
「だ、だ、だれが、水戸洋平を好きだって!?」
「ちょ、調子こいてんじゃねーよっ!」
「バーカ!」
散々罵声を飛ばしトイレから出てく女子二人。
あーあ、なんだこれ。確実にいじめの対象ですよね、こんなの。もう本当に意味わかんないや。
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