異性を見る目がないのは、目に見えるものに、とらわれているから。
本当に大切なものほど目に見えない。まわりに惑わされず、一時の感情に惑わされずしっかりと相手を見ること。
好きな理由は自分にしかわからなくてもいい。本気で好きになったのなら最後まで信じること。
15歳、10月
― 15歳、10月 ―
湘北高校、体育祭——。
事前に配布されていたお便りにより、学校中にちらほらと特攻服を纏った生徒たちがいた。実行委員の提案で、学ラン風に作成された特攻服——ロングの羽織りには一年生は赤、二年生が黄色、三年生が青の刺繍で背中にでかでかと組長の主張��〇年組�≠ニ、刻み込まれているらしい。
しかもしかも誰の案なのか、白いハチマキにも同じ色の刺繍で同じ文字が施されておりそれらも学年の組長たちに、手渡されたのであった。
「ねえ、見た?学年別の特攻服〜!」
「見た!めっちゃイカしてたよね!」
二年生、三年生の組長は誰が務めたのかまでは知らないが、一年生は有無を言わさず桜木くんが着るものだとばかり思っていたのに、まさかの、桜木くんが『桜木花道』という自己紹介文の赤い刺繍が刻まれた特攻服の羽織りを着ていたので、どんな流れだったのか一年生の代表は洋平くんが引き受けていた。
「ねえ、ねえ、水戸くんの………見た?」
「見た見たっ!チョーかっこよかった!」
わかる。洋平くんの特攻服姿——冗談抜きに、目が潰れるかと思った。カッコ良すぎて。いや、多分潰れたと思う、リアルに。だって現に目が、いまだにシパシパしてるもん。
ちなみに、残りの桜木軍団は、刺繍を施してはいないものの、同じ型の黒い特攻服を纏っていてそれはもう��湘北高校ヤンキー代表�≠フ、具現化そのものという感じで、思わず陰から見ていて、一人で笑ってしまった。
そう言えば……流川親衛隊とかいう謎の集団、(三人組)も『流川親衛隊』と、赤い糸でハートマーク付きの刺繍をしたピンク色の特攻服を着ていた。あれ、意外と可愛かったなぁ。
『全校生徒のみなさんへ——。衣装がある方は、着替えを済ませグラウンドに整列してください』
教室で適当に時間を潰していたら、そんな校内アナウンスが流れてきた。私を目の敵にしている女子二人組がきゃっきゃと教室を出て行ったのを目の端で流し見ていると、クラスメイトから声をかけられた。
「名前」
「……?」
「ほら、行こうよ!」
腕を引かれ、半ば強引に教室を出る。最近は、いたって平和だなぁーなんて思いながらも、私はそのクラスメイトに感謝しつつ腕を引かれるままグラウンドへと向かった。
*
生徒入り口が、混雑している。そりゃそうだ、この人数が一斉に外に出ようとしてるのだから。
他の生徒にならって外に出れば、一際目立つ、女子生徒に目を奪われた。その生徒は、真っ白いつなぎ型の特攻服に身を包んでいてその周りには友人らなのか、体育着を来た生徒も数名いる。
「——げっ!?」
その声に一緒に歩いていた私のクラスメイトが反応を示し「ん?」と、私を見た。私は「あっ、あれ……」と立ち止まり指をさす。それに従って私の指差す方に視線を流したクラスメイトもハッとして「えっ!?」と、大きな声を発する。
私たちが目にしたのはその白い特攻服の背中にでかでかと青い糸で『三井寿狂』と、刺繍された文字が——。
「だれか高宮君
愛
(
ラブ
)
って書いてくれね〜かなぁ〜」
「おっ! 俺が書いてやろうか?」
不意に聞こえてきた会話。言わずもがな犯人は軍団達だった。のしのしとグラウンドに向かって歩いていく高宮と野間の後ろを大楠と桜木くんが爆笑しながらついていく。まるで、��ご〇せん�≠「や、��◯〇卍リベンジャーズ�≠ウながらの空間だなぁ、なんてぼうっと四人を眺めつつその中に洋平くんがいないことに気がついた。
「ちょっとアンタ!これ着なさいよっ!」
「うわ!すっげー、うん。着なってなまえちゃん」
今度はそんな騒ぎ声が背後から聞こえてきて、歩きながら不意にチラッと振り返ってみれば生徒入り口脇に数名のかたまりを発見した。その中に見つけた、壱年組の特攻服を纏った、洋平くんの姿………。
「こっちのほうが立派よー?かっこいいわ、絶対に!あんなのよりねっ!」
その輪の中心には体育座りのまま「うぅ〜」と声にならないうめき声をあげている三井の彼女。
何だ、やっぱ一緒にいたのか、三井の彼女と。心配して損した。
「よ、よし!なまえさん、着ようぜ?なっ?」
「そ、そうよ! なまえ。着なさいよっ!」
「あいつ、やっぱ三っちゃんのこと好きだったんだな……」
「い、いま言わなくたっていいだろ!」
「空気読めよ」
「三っちゃん相手してねえだろ、いっつも」
……仲、良さそうだなぁ。仮にもあの人って、転校生だったよね、たしか。もうなんていうか、ベタな��学園の人気者�≠チて感じだ。
それにしても、あんなヤツ——三井にもファンなんかいたんだな。意外。てか……目、腐ってんじゃないのかな、あの白い特攻服の『三井寿狂』なんて背負ってた女子。ちきしょう、私もガチで背負ってやろっかな、水戸洋平命——って。
*
『宣誓! 我々、湘北高校生徒一同は、スポーツマンシップにのっとり——』
グラウンドには選手宣誓をする男女一組の声がマイクを通して、校外に響き渡っている。それが終わると今度は生徒会役員の人達にマイクが回されて体育祭の進行が始まった。いよいよ開始だ。
『最初の競技は球入れです——。スターターピストルを合図にグラウンド奥にある籠に球を入れてもらいます』
そのアナウンスに従い、球入れ競技をする生徒たちが、ゾロゾロと立ち上がる。私は自分が何の競技に出るのかも把握していないためとりあえずその場で座ったまま時が過ぎるのを待っていた。
『はじめは壱年組と弐年組です。右の籠が一年生左の籠が二年生となっていますので……』
そのアナウンスを聞いて私が反射的に二年生の生徒が座っている方に視線を流すと三井の彼女が立ち上がっていたのが見えた。
ふーん……三井の彼女、球入れなんだ。なんて思っていたら一緒なってあの美人な黒髪の先輩とバスケ部のチャラチャラした先輩も立っていた。そのとき初めて私はあのチャラチャラした先輩が二年生の組長に任命されたのだと知った。
パーン!というピストルの音を合図に籠に向かって走る生徒たち。ヒューンと走り去って行ったあのチャラ男の先輩、特攻服姿の二年生の組長。足が速すぎて思わず目を見開いた。しかも羽織りがなびいて、マントみたいになっていて笑える。
そのまま視線をなんとなく三年生の生徒の方へ向けたとき、待機して競技を見学している生徒の中に見えた人物。ご丁寧にサラシを巻いて下にはボンタンを履き『参年組』と刺繍の入った特攻服を羽織っている——三井の姿。
「……っ」
ちきしょう……。
��あんなヤツ�≠ノも��あんなヤツの彼女�≠ノも、��あんなヤツの彼女だけを想っている水戸洋平�≠ネんかにも、私は、負けたくない——。
「花道ィ〜、そんなにボール独り占めすんなよ」
「これ全部ぶん投げてしまえば一年の勝ちィ!」
負けたくない……、
「花道!!流川にぶつけんな!仲間だ、今は!」
「ルカワ! ルカワ!! ルカワ様〜ッ!!」
「ふんぬ〜、流川め!!」
負けたくない、
「よーへー!ほら抱き上げてやるっ!ふんっ!」
「はっ!?いいって! 花道、おろして……っ」
「ガハハハハ!洋平のヤツ、抱っこされてらぁ」
——負けたくない。
「リョータ!! アンタこそ、ちゃんと目開けて投げてんの!?」
「投げてんのに……、ひでえや彩ちゃん……」
「なまえ!アンタも笑ってないで投げなさいよっ!」
だって、
大好きなんだもん——。
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