『思わせぶりに期待するのが悪いんじゃなくて』
『思わせぶりをする人が悪いんじゃないかな?』
『太陽が沈んでいく瞬間、綺麗だったよな』
彼はいつも、耳あたりのいいことばかり言う。
私は一人が怖いのではなく、一人にさせられた感が怖いのだ。結局は、共依存の関係がいい。
ああ……恋が終わるのなら、せめて夏がいい。
*
♪〜♪〜♪〜・・・
一人取り残された空間に携帯電話から尾崎豊の『15の夜』が鳴り響く。
そうだ。なんとなく、水戸くんを思い浮かべてダウンロードした着信音だった、これ。あーあ、ムードぶち壊し。もう、誰だよ……。
「……もしもし」
『名前?』
「ああ……」
彼氏だった。なんだか今は彼の声を聴いたら、安堵感に包まれた。でも相手は誰でもよかったのかもしれない。とにかくいまは、ひとりぼっちでいたくなかった。
「どうしたの?」
『うん。いや、こっち休み時間だから。出るとは思わなかったけど』
「私は授業中だけど……今さぼってる」
『マジで?留守電入れようと思ったんだけどさ』
「そっか……で、何?なにか用だった?」
『そうそう、あのさ、今日俺んち来て?』
「え?あー、うん。いいよ」
『じゃ、あとでメールする』
「ん。じゃね」
……………教室、戻るか。
私は携帯電話をスカートのポケットへとしまい屋上をあとにする。
教室に戻るともう一時間目は終わったみたいでがやがやと騒がしかった。とっさに、水戸くんを探したけれど、彼の姿は見当たらなかった。
「名前!」
私が教室の入り口でぼーっと突っ立っていたらクラスメイトに声をかけられた。彼女は私に詰め寄り、やや興奮気味に言う。
「さっき、すごかったね!」
「へ......?あー......。」
なんだ。その話か。ぶっちゃけもう忘れたいんだけどなあ、なんてうんざりしていたらまさかの予期せぬ言葉を投げかけられる。
「あのさあ、名前……もう水戸洋平に構うのやめなよ」
「え?」
もう一人、違う女子がそばに来て、今の会話をはじめから聞いていた素振りで続けて言った。
「桜木軍団とかいうふざけた奴ら。あいつら相当やばいらしーよ?」
「は? なに……やばいって?」
私は目を細めて聞き返した。声が心なしか震えている気がする。何の震えかは、自分でもわからない。怒りなのか悲しみなのか、それとも……。
「万引きとかカツアゲとか。あと一番やばい噂があいつら、平気でレイプとかしてんだってさ」
「嘘!マジでー!やばすぎ!」
はい……?待って、急に何なの。混乱している私をよそに「無理ー!」とか言いながら、きゃあきゃあ騒ぐ目の前の女子二人組。あれ?この子達ちょっと前まで、私と仲良くしてくれてた子たちだったはずだよね?……何だろう。この違和感。
「ね?だから、そんな奴らと一緒にいると名前が危な——」
「それ、本人に訊いたの?」
「えっ?」
クラスメイトが言い終わる前に私は言葉を遮り言い放つ。視線をどこに向けて良いのかわからずとりあえず足元に向けたままで続けた。
「水戸くんが、やってるって言ったの?それ」
「……」
「……」
急に目を合わせて黙りこくる女子二人。ここで止めておけばよかったと後悔したのは、もっと、後になってからの話だった。
「外見だけで判断すんの、やめなよ」
私はそう言って二人を睨みつけた。怒りが収まらない。強い口調が止まらない……正義感——というやつだろうか。今度は二人が困惑したような顔になった。
「……」
「……」
大人気なかったかな。ちょっとムキになりすぎちゃったかも。でもこれで少しは反省してくれたらいいな。見かけで判断するなんてよくないよ。はぁ……これだから女子は——
「あ〜、そっかぁ!」
先に私に声を掛けてきた子が突如声を上げる。チラチラと、教室内にいた生徒の視線がこちらに向く気配。女子二人は、さっきとはまるで真逆な顔付きで笑っていた。私を嘲笑うみたいにして。
「名前は��そっち側�≠フ人なんだねぇ〜」
「え? そっち側の、人……って?」
まったくもって��そっち側�≠フ意味もわからないし状況も掴めなくて私は二人を交互に見やる。彼女たちは例えるなら悪女みたいな、いじめっ子みたいな笑い方をしていた。嫌な、予感がする。こんな二人の顔、初めて見た。
「精々楽しめば?私こんなに悪い人たちと仲良しなんですうー!って」
「あはははは! 超うける!」
言葉を返す間も無く、二人が言い終わったタイミングで、始業のチャイムが鳴った。笑いながら席に着く二人。その後も、ヒソヒソと話しているクラスメイト達の声。私は教室の入り口から動けずにいた。本当に、理解が追いつかなくて。
「——おい」
刹那、私のうしろから教室に入って来た誰かに声をかけられびっくりした。先生かな、と思って振り向くと、相手はまさかの水戸くんだったからもっと驚いた。
「早く席着きな」
そう言って私の真横を通り過ぎ教室へ足を踏み入れる水戸くん。水戸くんが教室に入ると生徒の数人がチラと彼を見ていた。その中にはもちろんさきほど言い合った女子二人もいる。
もしも。仮にさっきの会話を聞かれていたら。だとしても、普通に私に声を掛けれるなんて水戸くんはどれだけ大人なんだろう。気まずさはあるけれど、それを少しでも隠そうとしてくれているのが手にとるようにわかった。そんな些細なことにも、つい私は涙腺が緩みそうになる。
席に着く前に水戸くんは一度私の方を振り向いた。そして「あ」と私を指差す。何かと思うと、急に頭に軽い衝撃が走った。廊下を歩く先生に、「早く入れ」と、教科書で頭を叩かれたのだ。
「……はい、」
そう小さく呟いて大人しく席に着こうとチラと水戸くんを見たら彼は、クツクツと肩で笑っていた。そして私の視線に気付くと少し目尻を下げて口パクで「あ ほ づ ら」って——。
ほら。水戸くんの、どこがやばいって言うの?全然、普通の男子高校生じゃん。
私はなんだか恥ずかしくなって、下を向くしかなかった。
やるせない
思春期の気持ち。
(よーし、授業始めるぞー)
((はーい))
(あれ?——おい、水戸)
(……はい?)
(桜木は?)
(……さぁ。)
(ったく、問題児が……じゃあ今日の授業は——)
※ image song『 不言論/YO_CO 』
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