君に会いたいよ 近すぎて言えないよ
流れて消えた雪の涙
とまどい 遠慮 すれ違い
気持ち迷子 分かんないよ
でもあの日の言葉がずっと消えないの
君に会いたいよ どうして言えないの
一番大切だって気づいたのに
君に会いたいよ 遅すぎた私は
ねぇ どこに歩けばいいんですか?
本音 建前 すれ違い
誰も傷つけたくないから
また大事な言葉を飲み込んでるの
手に触れたいよ こんなに近いのに
一番じゃないこと分かってるの
君が遠いよ 息が詰まる恋は
ねぇ どこで休めばいいんですか?
手のひらの中の思い出をそっと
閉じ込めたけれど
消えないんだよ この気持ちは……
*
「え〜!? 木暮先輩かぁー」
「私は絶っ対、三井先輩派っ!」
「でも怖いじゃーん?三井先輩」
「そこがいいんだよっ!あの、マイルドヤンキーみたいな感じが!」
高校二年生、二月。私と寿が別れて約二ヵ月が経とうとしていた。
放課後の掃除の時間。同級生達のそんな他愛も無い会話が不意に耳に飛び込んで来る。マイルドヤンキーねぇ、確かに。久しぶりに再会した時の彼は確かにちょっとツンとしてて、少し怖かったけど。でもそれから一日が過ぎて一ヵ月が過ぎてやっぱり、彼の変わらない優しさを知った。
「三井サンさぁ、派手にずっこけてあの傷作ったらしーよ」
背後から声が聞こえてきて、彩子と一緒に声のする方を見やる。彼、リョータくんは部活に行く準備を済ませ、バッグを肩にかけながらこちらに歩み寄ってきた。
「なまえちゃん見た?三井サンの顔。」
「え、ううん。何か……あったの?」
「三井先輩、顔中傷だらけで部活に来たのよ」
続けて、彩子が説明する。彼とは校内でも特にこれといった接触はないので、当たり前に元彼の近況を知る由もない私は呆然とする。
「だ、大丈夫なの?寿……」
「うん、へーきだってさ。普通に部活にも来てるしねー」
リョータくんが言う。そして楽し気に「懐かしいよね、あの感じ♪」と彩子を見れば、彩子は、「やめなさい」とリョータくんを、軽く小突く。
そのまま軽く三人で会話をして、部活に向かう二人を見送り、私はまた掃除に取り掛かった。
*
「まァ〜た探してんのぉ〜?モ・ト・カ・ノ♡」
「バッ、バカヤロウっ!そんなんじゃねーよ!」
「三井照れてる、可愛い〜」
「ふ、ふざけんなっ……!」
高校三年生、二月。彼女と別れて、約二ヵ月が経とうとしていた。
放課後の掃除の時間に同級生の女子が窓の外を見ている俺に絡んで来る。べっ、別に探してなんかねぇ。ただ、何だかずっと避けられている気がして。何度も声を掛けようとした。でも、いつも彼女を見かける度にものすごく遠くに感じて……
「アオハルだねぇ……」
「……あ?」
「しかし三井、すっごいね……その顔をアザ」
「うっせーな……ほっとけよ」
「喧嘩でもしたの?」
「してねーよ! 転んだっつっただろーが!」
これ以上、誰も傷つけたくないから、俺はまた大事な言葉を飲み込んでいる。
手に触れたい……こんなに近いのに。もう一番じゃない事を分かっていても、消えないんだこの気持ちは——。
ふと見降ろした窓の下、その目線の先に映る、愛おしい彼女の姿。転びそうになったその光景に「あぶねっ」と、思わず声が出てしまった。
「っと、セーフ……!」
「……水戸くん。」
視線の先には、二度にも渡ってこの顔を傷物にしやがった生意気な一年坊の後輩。そいつに笑顔を向ける幼馴染の姿。その光景に、胸が詰まる。いつも彼女が転ぶ寸前に掴んでいたその手を今は別の誰かが支えているという現実。
「あー、水戸洋平ね」
「あ? 水戸と仲いいのかよ?」
「ううん、あの子ヤリ手って有名だからねぇ〜」
「ふうん……」
石壇に腰を下ろして笑い合う彼女と水戸を俺は茫然と、高い位置から眺めていた。
もうあの笑顔は俺に向けられる事はないのか。彼女はいつだって俺の一番の理解者だったのに。
「持ってかれちゃうよー? 水戸洋平にー」
「……いや、もう関係ねーしな俺には……」
「——三井、」
「あ?」
「それって本音?それとも……建前?」
目を見開いて同級生を見た後、もう一度視線を窓の下の二人に落として、俺は小さく呟いた。
「建前だよ……」
「……行けば?」
「あ? どこに」
「すぐ真下の、想い人のとこにさ?」
そっと視線をまた窓の外の二人に戻す。こちらの存在にすら気づいていないらしいその雰囲気に俺はふっと自嘲するように白い息を吐き出した。
「……近すぎて、行けねーよ。」
*
怪我したのか……思いきり転んだって、本当に大丈夫なのだろうか。そう言えば最近、近所でも見かけてないかもという事を思い出す。そもそも私から避けているっていうのも、あるけれども。
「バッ、バカヤロウっ!そんなんじゃねーよ!」
教室の掃除を終え、ゴミ袋を手に持って校外を歩いていると聞き慣れたその声に思わず立ち止まり校舎を見上げれば、教室の窓際に人影が二つ。ギャルっぽくて可愛らしい同級生の女子とじゃれ合う元カレ——寿の姿があった。
「三井照れてる、可愛い〜」
「ふ、ふざけんなっ……!」
私はすぐに俯いて顔を隠す。そのまま駆け足でゴミ捨て場に行き、乱暴にゴミ袋を投げやった。
二人が仲良く話しているその姿を目に入れないようにと無意識に小走りになる。けれど相も変わらず間抜けな私は進行方向から歩いて来た人物と思い切りぶつかって後ろに転びそうになった事でバランスを崩してしまった。
「キャ……ッ」
「——っと、セーフ……!」
「………、水戸くん?」
気が付いたら、転ぶ直前で誰かに腕を掴まれていた。その掴まれた腕の延長線上に、水戸くんが居た。あぁ私、水戸くんと正面衝突したのか……もうあの人は、手を取ってくれるはずが無いのに私は今でも、つい期待をしてしまう。いつも寿がその手を取って救ってくれていたから。ヘラヘラ笑ってっからコケるんだよって。彼はいつだって私の一番の理解者だったから——。
「あらら、泣かせちゃったか」
「ごめ……、水戸く……ん」
眉をハの字に下げた水戸くんが大袈裟に両手を上げて、降参の意思表示をする。
「——なまえさん、」
「ん……?」
「一服、どうですか?」
俯いていた私が見上げた先に、ピンク色をした��イチゴミルク�≠フ缶が見えた。ほんと、なんてミスマッチなんだろう。水戸くん、イチゴミルク似合わなすぎだよ。
「へへ……アリガト。」
水戸くんと目が合う。こちらをじっと凝視する彼に私は「ん?」と小首を傾げた。
「やっぱ、そっちの方がいいね」
「ん? そっち?」
「なまえさんは笑顔の方がいいってこと」
「え……」
「なまえさんの笑顔は、最強の武器だからなー」
「——水戸くん……。」
つまづいてる時は、いつも声をかけてくれた。
救ってくれた。
�� なまえさんの笑顔は、最強の武器 ��
額に入れて胸の真ん中に、一生飾っておきたいようなセリフだった。
どんなに辛い時でもそれを見れば、勇気を取り戻せる賞状のように——。
*
すぐ側にあった石壇に二人で腰を下ろし彼から受け取ったイチゴミルクの缶を握り締める。
「寿——怪我、したんだってさ」
「え、そーなの?」
私はこくんと頷く。水戸くんはそれ以上、追求してはこなかった。なのでこちらから先の言葉を続ける。
「派手に転んだって、リョータくんが言ってた」
「へえ。転んだ、ねぇ……」
「見た?水戸くん」
「いや……最近バスケ部もなかなか行けなくて」
私は「そっか」と短く返す。水戸くんがすこし動いた事で隣から彼の香りが鼻を掠めた。香水がいつもより強めと言う事は、ついさっき屋上で、タバコでも吸ってきたのだろうと想定する。
「心配?」
水戸くんが呟く。私は水戸くんを見やる。彼はいつも通り表情を崩さない。私は「うん」と素直に即答した。
「それ——俺がやったって言ったらどーする?」
——ふと思い出される、数ヶ月前の出来事。
『ケンカ、するってこと?』
『んー。なれば、なるなァ』
『だって……それ私、どうしたらいいの?』
『そうねー。味方したらいいじゃん』
『味方?』
『そう。』
『ど……どっち、の?』
彼からの提案で一緒にバッティングセンターに立ち寄った日の帰り道での会話が頭の中を一気に駆け巡る。
『なまえさんは、どっちの味方する?』
ド真ん中直球ストレート。小細工なしの豪速球が、逃げ腰の貧弱バッターへと襲いかかってきたあの日。
今の私はいったい、どちらを選ぶのだろうか。
「……え?」
「……」
やや遅れて声を発し、驚いて再度真横を見たら今度は彼がこちらを見ていた。目が合う。何だか悲しい顔をしているかもなんて思った。たぶん、気のせいだけど。
「喧嘩、したの?」
「まさか」
「じゃあ、なんでそんなこと言うの?」
「んー、どうしてでしょう。気分かな」
やっぱり彼は、よくわからない。本当に適当に言っただけかも知れないし実は深い意味があるのかも。でも水戸くんと寿が喧嘩する理由も、特に思い浮かばないし……じゃあ、冗談だ、きっと。
正面に向き直り、やや続いた沈黙のあと私が、ぽつりとつぶやく。
「水戸くん、」
「はい?」
「遅すぎた私の気持ちは、さ?」
「うん」
「どこに、行けばいいのかな……」
チラッと見やれば、やっぱりいつも通り正面を向いたまま、困った顔で眉をハの字下げる、彼がいたのだった。
ツ
ノ
ル
キ
モ
チ
(会いにいけよ)
(え?)
(すぐ真上に居るぜ、その会いたい人は。)
(近すぎて、行けないよ……)
※ image song
『ツノルキモチ/CHiCO with HoneyWorks』
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