「よしっ、完成!」
「「「おぉ〜!!」」」
——午後10時、パチパチと拍手の音が響く大楠くんのお家にて。水戸くん宅にいちばん近いのが大楠家だったので買った材料等諸々を持って大楠くん宅へおじゃますることになった。
大人数&大荷物で押し掛けた私達に大楠くんのお母様は、にこやかにキッチンを貸してくれた。良い人だなぁなんて完成したケーキを見て思っていると、今度は大楠くんのお父様が帰宅。
「「「「おじゃましてまぁ〜す」」」」
全員でキッチンから顔を出して、ペコリと頭を下げると「ん?もしかして、雄二のコレか?」と昭和風丸出しで小指を差し出してくる大楠くんのお父様。
「ち、違いますよっ!」
赤面する私を見て、大楠くん以外の軍団が腹を抱えて笑い転げる。大楠くんは、やれやれと溜め息を吐いていた。なんか……大楠くんごめん。
「あ、あの……サプライズで水戸くんの誕生日を祝ってあげようと思って、それの準備です!」
顔の前で手を振って訳を話すと大楠くんの父が「ああ、洋平ね」と、人のよさそうな笑みで納得したように頷いた。その微笑んだ顔がどことなく大楠くんに似ていてほっこりした。何かいいなぁ大楠家って。なんだか、寿の家族に似ている気がする。
私以外の三人は、大楠くんの部屋に移動した。一人、ケーキのラッピングを任された私だったが心細いと察したのか時折彼のご両親が声をかけてくれたので助かった。
「雄二、迷惑かけてない?」
「いえいえ全然です。逆に私が迷惑かけっぱなしなので。彼らには本当に感謝してるんです、私」
私と大楠くんのお母さんの会話を、リビングの椅子に座って聞いていた大楠くんのお父さんが、椅子に片方の腕を投げてこちらを向き、目敏くも聞いてくる。
「——もしかして、洋平の彼女さん?」
「え」
こら、お父さん!と大楠くんのお母さんが声を張る。私は目だけで大楠くんのお母さんを見た。
「ごめんね〜、お父さんったら洋平くんのいないところでまた、ベラベラと……」
というフォローにも、私はなぜか頬を赤く染めながら「大丈夫です」と、顔の前で両手を振る。
ちょっと、ちょっと……なぁにが大丈夫です、だよ。ちゃんと否定しなさいよ、私も。
「洋平、男前だもんねぇ」
「え、あ……はい。デスネ」
「あの子、良い子でしょう」
「……はい、いつも助けてもらってます」
「よく血だらけの雄二を担いで、ここまで連れて帰ってきてくれたもんだ、中学の頃はとくに。」
ここでようやく会話をしていた彼のお父さんをチラッと見やれば大楠くんのお父さんはテレビの方に向き直ってビールをゆっくりと嗜んでいた。その背中を見ていたら、やっぱり寿のお父さんに通ずるものがあった。私は、返す言葉に詰まる。
「あいつら、去年の春に謹慎くらったでしょう」
「あ……はい。実は私その後に転校してきたのでよく内容までは詳しく、知らないんですけども」
「あ、転校生なの?そうか……。あの時も洋平、ぜんぶ俺が巻いたタネです、って謝りに来てね」
「……、」
「親なんかは子供の遊びだって気にしてないのにまったく……高校生のくせして律儀なもんだよ」
ケーキのラッピングが終わった。それを見て、お手伝いをしてくれていた大楠くんのお母さんが「できたわね」と、私に微笑みかける。
私は箱を丁寧に抱えて二階にいるみんなの元へ向かおうとキッチンを出ようとした、その間際。
「洋平と、仲良くね。」
「……!」
「勘違いされやすい子だけど、ちゃんとアイツの中身を見てやってね。ほんと、優しい子だから」
彼の父親が言った��良い子�≠ニいう表現には、いまいちしっくりこなかったけど��優しい子�≠ニいうのには頷きたくなるほど心から納得がいく。
大楠くんのお父さんの言葉を背に「はい」と、しっかり返事をして、私は二階へ向かった。
二階の大楠くんの部屋の前、扉が全開になっていて、せっせと飾り付けの準備をしている三人が目に入る。ふと室内を見渡すとテレビの脇に戦隊モノのお面が無造作に置かれてあった。去年の夏祭り、彼らが世界の平和を取り戻してくれた際に被っていた、あのお面だ。懐かしいな。
とは言え、野間くんの作るおりがみリングが、とんでもない長さになっていて、私は思わず吹き出してしまう。
「おー、姐さん!ケーキ包み終わったか?」
高宮くんが白い紙に『祝!洋平生誕祭』とマジックで書きながら顔を上げた。私はうんと頷く。
「うおー!早く食いてー!」
「オマエそればっかだなー」
マジックを振り回す高宮くんに大楠くんが安定の突っ込みを入れる。それに笑っていると今度は野間くんが「花道にも電話してみっか」と部屋を出ていった。
*
——午後11時半。水戸くんのアパートの前。
野間くんが太い針金を片手に古風なドアノブの鍵穴にそれを突っ込むのを、私と高宮くんと大楠くんと途中から合流した桜木くんが後ろで固唾を呑んで見守る。
「おいチュウ、コレ犯罪じゃねーのか?」
「水戸くんち初めて!ワクワクする〜♪」
「しっ、うっせえ姐さん、花道」
大楠くんが桜木くんの口を押さえると目の前でカチャリと良い音が響く。開いた——!と全員で丸くなったまま小声で喜びを分かち合いそーっと室内に侵入しようとした、そのときだった。
「——オイ、何やってんだおめーらは」
背後で心底呆れたような声音。全員で恐る恐るゆっくりと振り返ると、そこには——
「うぉおおおお洋平いいい!!!」
「ぎゃああああ!!!」
「出たああああ!!!」
「うるせーよ!しぃ!騒ぐなって、なにしてんだアホ軍団!勝手に人の家に入ろうとしてんな!」
近所迷惑なんて言葉は一瞬にして吹っ飛んだ。こんな夜更けに絶叫する私達をよそに水戸くんはスパコーン!と私以外の軍団の頭に綺麗に手刀をお見舞いする。私にはやらない彼の優しさに胸がキュンとなる。いや……きゅんなんてしてる場合じゃない。完全に近所迷惑だったわ。
「ったく、しょうがねぇな……」
「「「「スイマセン……」」」」
腕を組む水戸くんの前で、何故か制服姿のまま正座をする、男子4名+女子1名。
「深夜までじゃなかったのか、バイト?」
「てか黒服なんて言ったの誰だよ」
「何個も掛け持ちしてんのかと……」
「え、水戸くんって夜のお店で働いてるの!?」
「こらこら、勝手に俺のバイト先決めつけんな」
ヒソヒソと小声でやり取りをしはじめる私達に水戸くんが「今日は早上がりだったんだよ」と、トゲを刺す。
「——で? なんだその大荷物は。」
水戸くんが溜め息をついたあと改まって問うと私の横で一緒にそわそわしていた途中参加でほぼ大楠くんの両親と話し込んでいて準備に非協力的だった桜木くんが「よーへー、明日誕生日だろ」と言った。そうそう、と私たちは頷く。
「……だから?」
「だからサプライズパーティーやろうと思って、飾りとか作って、私たち持ってきたんだよっ!」
依然腕を組んだままの水戸くんの下で、正座をした私が、高宮くんの持っている紙袋を指さす。
「わざわざ大楠ん家行って作ったんだぞー!?」
「そーそー!陵南の近くのジャスコ寄ってな!」
「姐さんが彼女だと思われたんだぞ、俺はっ!」
「あ、そういや駅で仙道見たぞ花道」
「なぬ!ほんとか! センドー!!」
「いや、だから誰っ!?陵南のせんどーって!」
思わず私が四人に突っ込むとハア、とため息を吐く水戸くん。時計の針は、既に11時45分だ。
「……水戸くん。勝手に家に入ろうとしたのは、ゴメン。もうしない。でも、どうしてもびっくりさせたかったの」
「……」
「私達が0時になって一番に水戸くんの誕生日、お祝いしてあげたかったんだよ……」
俯いてぽつりと呟けば桜木軍団の四人も頷いた気配。目の前には、未だ呆れ顔の水戸くん。
「……ったく、バカだなぁ」
くしゃりと、水戸くんが笑った。思わず全員で目を見張る。こんな笑い方は初めて見たからだ。
「入れよ。しょうがねーから付き合ってやるぜ、そのパーティーとやらに」
「しょ、しょうがないっておまっ!自分のためのパーティーだろうがっ!」
「金取るぞ、洋平!」
ガチャリとドアを開けた水戸くんより先に野間くんと大楠くんが、文句を言いながら部屋の中に入っていく。
「まぁ〜、不法侵入で訴えられてたら俺ら終わりだったけどな!」
と、高宮くんが笑いながらそれに続いて入って行った。それを見送って、水戸くんも中に入って行く。そして未だ部屋の前に突っ立っていた私の横で桜木くんがポツリと呟いた。
「よーへー、なんか変わったなァ」
私はケーキが入った紙袋を、そっと地べたから持ち上げながら「え?」と、聞き返す。
「なんつーか、今まであんな笑い方しなかった」
そう言って桜木くんは嬉しそうに、ニッとうち笑む。晴子ちゃんって、どうして桜木くんに惚れないんだろう……なんて思った。こんなに素直で素敵な男子、他にいないのになぁ、って。
「そっか」
「あ、なまえさんも汚いとこですが、どーぞ!」
「えっ?ここ桜木くんの家じゃないでしょー?」
「あ!コラお前ら!この天才を忘れてねーか!」
最近また刈ったらしい、真っ赤な坊主頭の桜木くんと野間くんと大楠くんと高宮くんと、それに巻き込まれてじゃれあう水戸くんの背中を、私はなんとなく、部屋の入り口から見つめていた。
水戸くんはあの背中に何を背負って何を抱えているのだろうか。私にはわからない、きっと……彼らにも、100%はわからないのだろう。
知らない水戸くんが、まだまだたくさんいる。いつかみんなバラバラになっちゃう時がくるかもしれない。でもこれからもきっとこうだと思う。だってみんな、水戸くんの事が大好きだからね。もちろん、私も。
「なまえさん、汚いとこですけどどーぞ」
「あ、それさっき俺からも言っといたぞ」
「ははっ、なんで花道が言うんだよ」
桜木軍団はいつだって��ニコイチ�≠カゃなくて��ゴコイチ�≠ネのだろう。
私は、ケーキの入った袋を大事そうに抱えて、「おじゃましまーす」と、彼の家の中に足を踏み入れた。
「よーへー!」
「うわっ、なんだよ花道、あぶねーなァ」
思いきり彼の背後から両手を回した桜木くんが大楠くんと高宮くんと野間くんと目を合わせると四人が今度は私の方を見る。頷く私。私たちは、近所迷惑なんてお構いなしに大声で声を揃えた。
「水戸くん、16歳おめでと〜う!」
「「「「洋平、16歳おめでと〜う!」」」」
目を丸くした水戸くん。しかしみんなは薄情でさっさとケーキやらお菓子を広げて宴会を始めている始末。でも、らしくていいな、と思う。
「水戸くん」
「ん?」
彼の隣に立って、騒がしい桜木軍団を見ながら私は、彼の名前を呼んだ。
今日くらいならちょっとクサい台詞を言っても許されるかなぁ、なんて心が浮かされる。でも、こんな現実もいいのかもしれない。
「私たちが一番に見つけちゃったね」
「え? いちばん?」
「うん、見つけた——16歳の水戸洋平。」
「……っ、」
「へへ、なぁーんちゃって」
「……っんだよ、ソレ。」
珍しくちょっと頬を赤くた彼が、照れたように笑い返してくれた。そんな正義の味方戦隊の隊長
——水戸洋平くんの、16歳の誕生日。
青春
は、止まらない。
(とんだ脳筋集団だな、まったく。)
※ image song『 Happy Birthday/EXILE 』
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