僕が君の手を握りたかったのは

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  • ※三井長編『tiimalasi』スピンオフ作品※


    「なに見てんだ?」
    「あ、寿!ここにカエルさんがいたから」
    「カ、カエルサン……な?」

    今日も寿のバスケを見学していつもと同じく一緒に帰るため、外で寿が来るのをを待っていた。

    「ヒューヒュー夏の夜長にお熱いスね、お二人さん♪」
    「リ、リョータくん……!」
    「てめ、宮城……!」
    「ほら、リョータ置いてくわよ」
    「あ、待って彩ちゃん!」

    スタスタ先を歩いて行った彩子を猛スピードで追い掛けて行ったリョータくん。

    「結局あの二人もほぼ毎日一緒に帰ってるじゃんかー」

    ブーブーと文句を垂れていると、私の隣にあったはずの大きな影も先を歩いていく。

    「……ほら、こっちこそ置いてくぞ名前。」
    「あ、待って!」


    湘北高校に転校して来てから早、三週間。
    私は毎日のように寿と下校しています。

    「んで、カエルさんは何してたんだ?」
    「コンクリート歩いてたよ、可哀想に……最近天気いいもんね」
    「優しーなー名前は」
    「棒読み……!どーせバカにしてんでしょ?」
    「いや? 思ってるぜ本当に、」
    「ホントかなぁ〜」

    私と歩幅を合わせて歩いてくれる寿の方がよっぽど優しいと思うんですが……。

    そんな事を考えながら駅に向かって歩いていたら他校のカップルが手を繋いで歩いているのが見えた。

    「どこの高校だアレ」
    「あの制服は綾南かなぁ?」
    「バスケ部だったりしてな」
    「カッコいい人いる?綾南バスケ部」
    「知らね」
    「寿が一番かっこいいもんね?」
    「はっ!?」
    「にやにや」
    「……にやにやって言葉に出すなよアホ、」


    手……繋ぎたいな、なんちゃって。
    まあ……無いよね、幼馴染と手繋ぐなんて。


    「慣れたか?学校」
    「へっ?……ああ、うん、お陰様で」
    「おかげさま?」
    「寿やバスケ部の皆様のお陰様でってこと!」
    「……ああ、そりゃ良かった。」


    ……手ぇ、繋ぎてーなぁ。
    でも、まだ何も伝えてねーし……。


    「でも一番は寿のおかげだよ?」
    「あ?」
    「いつもこうして傍にいてくれるからさ」
    「……いや、別に……」
    「ありがとね、寿。」

    ああー!!!ダメだ限界——、
    なんだその笑顔は……!握る!もう握ってやる!

    「……ッ」

    ……出来ねぇ。
    繋げねぇ……情けねぇー、オレ。

    「寿?」
    「へっ? あ?なんだよ、どした?」
    「なんか今日は落ち着きないね」
    「なっ!!?」
    「トイレ行きたいの?」
    「い、行きたくねーよっ別に!」
    「そ?」

    こんなのもたねぇーよ……!どうしよ、ああ、炎の男! どーすんだ、オレ……!

    「フフフ……」
    「なんだよ急に……、気持ちわりーな」
    「いや、何か私さ」
    「ああ」
    「浮かれちゃってるなーって」
    「へっ?」
    「寿とこうしてまた一緒に帰れるのが嬉しくてさっ」

    ……。
     
    ああ……駄目だ。
    もう、だめだ俺——。

    ……その笑顔に
    俺も会いたかったんだよ、ずっと——。


    「名前、」
    「ん?」
    「手、見してみろ」
    「手?……あ、ハイ。」

    不思議そうに手のひらを俺に差し出した瞬間、小さなその掌を俺は瞬殺で握ってやった。

    「へっ?」
    「……、転んだら、あ、危ねーし」
    「ああ、ヘヘ……うん、ありがとう。」


    時間がかかってでも
    名前の手を握りたかったのは










     きみが 愛しい と気づいたから



    (小学校の頃、思い出すね)
    (そうか……?)
    (危ねーからとか言って寿が池に落ちてさ)
    (……忘れろ!んな思い出!)
    (あと、雨の日さボロボロの傘を…)
    (……なんかもっといい思い出ねーのかよ)


    ※二人がお付き合いするのはもう少し先のお話。

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