17歳、春 (27話)
—— カン、カン、カン…… ——
「ハァ、ハァ……ハァ、」
バスケ部には引退後もちょくちょく顔を出していたはずなのに、これくらいのことで、もう息が上がってしまっている。我ながら体力がねぇな。線路の前で立ち止まると先ほど正門からここまで全力疾走してきたツケが一気に押し寄せてくる。
『 三井サンなら、お願いごとは
手ェ、合わせるだけにします?
』
電車が通り過ぎると、遮断器が上がった。その長い棒が上がり切るまえに、また全力疾走する。
『 手を合わせてパンパン!って。
でもそれだけじゃあ、神様には
届かないと思うんスよねー。』
この坂道はよく自主トレで使っていた場所だ。そう、中学の頃からずっと。
帰り道には、あの浜辺にいつも幼馴染の彼女が居て。
『 オレだったら、自分の文字で
ちゃんとお願いごと書きたい派デス 』
バスケットが好きだった。
物心ついたときから、ずっと——。
『 だってさ、文字で書いたら神様にも
ちゃんと、見えそうな気がしない? 』
バスケットと、彼女が——。
『 ……さ、三井サン。
ヒントはここまでデス。』
俺は、名前が——、
『 あとは、自力で見つけてくだサイ。』
「はあ、はあ…はぁ……」
……畜生、息が続かねえ!
『 オレからの、卒業祝いっス。』
ラストスパートは、神社の長い階段。この長い階段の先に、宮城からの��卒業祝い�≠ェ隠されている。階段を二段越し。息なんかはとっくに切れていて、真面目にぶっ倒れそうだった。まあ……無理もねえか。かれこれ一駅ほどの距離を、全力疾走して来たんだからな。
そしてようやく辿り着いたその頂上。真っ先に向かった先は——�� 絵馬所 �≠セ。
「——、」
どれだ……。どこにあんだよっ、
「……」
あ……。
「合格、祈願だと……?」
以前から掛けられていたであろう古びた周りの絵馬と比べてみて分かったその新しい絵馬の影。思わずその板を手に取ると、まわりの板が反動でカタンと鳴った。ついで俺の目に入ったのは丸みを帯びた見慣れた筆跡で描かれた��合格祈願�≠フ四文字だった。そして、ふとその文字から視線を下げてみれば、俺の胸は途端に熱くなった。
�� 寿がずっと バスケットを出来ますように ��
その一文の右下に、遠慮がちに添えられている彼女の名前。この願い事を書いた張本人は先ほど校舎の外で高校生活最後の日に、俺の名を呼んでくれた。あの笑顔が、好きだった。
反射的に俺の足が来た道へ戻ろうと振り返る。しかし、キュッと鳴る自身の靴の音で俺は現実に引き戻された。ようやく結びついた、疑問だらけだった数々の答え。走馬灯のように記憶が一気に頭を駆け巡る。
『
参考書、買うの?
』
『
私に出来ることがあったら何でも言ってね
』
『
どうして悩んでるって教えてくれなかったの
』
『
私ってそんなに頼りない?
』
『
私ってそんなに力不足?
』
『
おお、寿!奇遇だねー!
』
『
彩子が待ってるから行くっ
』
まさか。もしかして、あのとき……。担任との会話を、すべて聞かれていたのか——?
『
そうやって無理して
』
『
いつか最後には、寿を押し潰す
』
『 わたしと、別れて。』
ずっと分からなかった。どうして彼女に別れを告げられたのかを……。離したくなかった。離すつもりも、なかったんだ。彼女の一時の気の迷いなら取り戻そうと。苦しいのなら分け合おうと。だけど、最後の彼女の泣き顔を見て、手を離してしまった。いや、手を離そうと思ったんだ。あの泣き顔に彼女の母親が死んだあの日と同じ情景が重なったから——。
学がねぇから、俺が理解できなかったとしても結果的には俺がここまで相手を傷つけたのだと。俺がここまで、彼女を追い詰めたのだろうと。
戻れない。彼女の決断を無駄にはしたくない。もうこれ以上……傷つけたくない、いや、傷つきたくないんだ。
ただ、好きだったのに。ずっとあいつだけが、好きだっただけなのに。
それが俺の、名前へのただひとつ
��伝えたかった想い��——。
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