kmt+

不死川実弥 冨岡義勇 宇髄天元 錆兎

clap

不死川実弥

4月1日、春休みの数学準備室にいた。「好きです」告げれば先生は唇の片端を上げる。「バレる嘘つくんじゃねェよ」「やっぱダメか」俯くと顎を掴んでぐいと持ち上げられた。見下ろす眉は苦しそうに歪んでいる気がする。「好きだ」あと数センチで変わる関係、嘘のなかでしか生きられない私たち。

冨岡義勇

なぜひとりになろうとするの、なんて問わずとも知っている。だから追いかけて抱きついた。背に垂れる髪に顔を埋めれば昨夜と同じ香りがする。「近寄るな、と言ったはずだ」「うそ」だってあなたの背中は泣いてたんだ、“逃がさないで”と。私はあなたといく、この羽織にしがみついて離れない。

不死川実弥

同窓会にむけてご機嫌にグロスを塗れば彼は舌打ちをする。いつものことだなと思っていると、喰いつかれた。崩れそうな腰に傷跡だらけの腕がまわされる。やっと離れた彼のくちびるは私と同じ赤に染まっていて、くらくらした。「ぜってェ潰れてくんなよ」もう酔ってます、あなたのせいで。

冨岡義勇

あなたの右手は口よりもよほど雄弁だ。私が泣くとあなたは決まって右手を私の頬に添えて、困ったように海底の色をした瞳で覗き込んでくる。繰り返しマメができては潰れて固くなった掌の感触を肌で確かめる瞬間が私は好きだった。甘えることを覚えさせたのはあなたなのに、どうかどうか神様。

錆兎

幸福そうに瞼を閉じて花弁に顔を寄せる君が深呼吸をする。もっと近くへと爪先で立とうとするとよろめいたから、反射的に腕を掴んだ。肌が柔かった。ふりかえり目を丸くした君はその手を伸ばし「綺麗ね、さくらみたい」と俺の髪を掬う。いたずらっぽく笑うからまたたく間に溺れた、春だった。

不死川実弥

目覚めたら腕のなかにいた。光に髪は白く透き通り、閉じた瞳を縁取る睫毛は寝息にあわせて震えている。愛おしくて、顔を横切る傷跡をなぞった。あなたの肌はいつも少し乾いている。大きな手が伸びてきて頬に触れている手にその指を絡め、爪の先にくちづけた。「いい朝だなァ」ええ、この体温があるなら。

不死川実弥

数学は嫌いだったけど窓際後ろ2番目の席から、時折「いいかァ」と言う癖を数えるのは好きでした。いまあなたの腕のなか、胸ポケットの造花がスーツに擦れた。「なァ、いいか」ねえ、その声は誰にも聞かせないでね先生。

富岡義勇

まさに水のような人だ、と思った。いくら掬いあげようとしても指の隙間から零れ落ちてしまう。離れたくちびるが言葉を紡ぐ。「あまり俺に近寄るな」申し訳なさそうに伏せた瞳が熱を帯びて揺れていた。それなら私も水に潜ろう、あなたの逃げ道ぜんぶ塞いで私の方から飛び込んでやる。

宇髄天元

「コーヒー飲むか?」と誘われ美術準備室の椅子に体育座りをした。大きなカップはブラック、小さな方にはいつも通りたっぷりのミルク入り。「おいパンツ見えんぞ」「見えてもいいやつだもん」とんできたデコピンの痛みに額を抑えて見上げれば愉快そうに笑う顔。先生、わたし卒業したくないな。

冨岡義勇

彼の背に垂れる黒髪を一房、手にとって丁寧に梳く。どうか無事でありますように、という祈り。「終わりましたよ」正面にまわり額にかかる前髪を払えば凪いだ瞳が微かに揺れる。首筋に伸ばされた手、重なるくちびる、漏れる吐息は湿っていた。「いってくる」あなたの帰りをここで待ちます。

prev kmt+ next
back


あなたの名前を呼ばない