彼に宿る違和感


会わせたい子がいるんだ、とおっしゃったイタリアくんは少しだけ困った顔を浮かべていて。俺じゃ力になれないから、と寂しそうに言った彼に、何故私だと力になれるとふんだのかがわからなかった。

世界会議が行われた、ほんの数分後の出来事だった。帰ろうとしている私を引き止め、自分の家に泊まっていかないか、と提案してくれた彼に対し、特に急いで帰る理由もないと考えお言葉に甘えさせてもらった。ドイツさんと別れてから、それを見計らったようにイタリアくんは冒頭の言葉を言った。


「私に会わせたい子というのは、どんな子なのですか?」
「ん〜、会えばわかるよー」
「イタリアくん、さっきからそればっかりですね」
「ヴェー、だって言ったら面白くないんだもん。会ってからのお楽しみでいいじゃない」


果たして私がその子と対面してどう面白くなるのやら。そりゃ今から誰を紹介されるのだろうかと考えると楽しみと言えば楽しみだが、少し不安のほうが勝っていた。

そもそも私はその誰かの力になるかもしれないし、そのことに対して少なからずイタリアくんも悩んでいるようだし。面白いかどうかは別として、興味があるのは確かな気持ちだった。


「そんな考え込まなくても、日本なら大丈夫だよ」
「その自信はどこから来るのですか」
「もちろん、俺の心から!」
「………」


胡散臭い、酷いようだが一言で表すならそれに尽きる。気付かれないように溜め息をついた私の腕を急にひっぱり、彼は自分の家へと走っていく。家の前に人影を見つけ、その人に向かって大きく声をかけていた。


「兄ちゃーん!」
「うるっせ!大声で呼ばなくてもわかるっつーの!」
「ヴェ〜?何怒ってるのさー」
「!、なんだ?なんで日本がいるんだよ」
「こんにちは、ロマーノくん。今日はお世話になります」
「は?」
「日本連れてきちゃった〜」


イタリアくんがそう言ったあとのロマーノくんの顔の歪みようは、もう言葉を発さなくてもわかるくらいのものだった。今日私が来るのは不味かったんじゃないでしょうか?


「お前なぁ…連れてくるならせめて連絡くらい寄越せよ。こっちにも準備っつーもんがあるだろうが」
「すみませんでした」
「何で日本が謝るんだよ。お前はそんなことしなくていいからとりあえずバカ弟!家に入ったら国名使うなよ?」
「ヴェー、わかってるよー」
「日本にもちゃんと説明しとけよ。じゃあ俺は行く」
「え?兄ちゃんどこ行くの?」
「別にどこだっていいだろ!」


ポコポコと怒りながら私たちが来た道を歩いていくロマーノくんの後ろ姿を見送りながら、先程彼が言っていた言葉を思い出していた。国名で呼ぶなとか、説明とか、私はきっと聞かなきゃいけないことすら聞かされていないのだろう。


「日本、家に入ったら、君は菊で俺はフェリシアーノだからね」


扉の前に立つイタリアくんの顔は見えない。多くは問わないけれど、その一つの約束がとても重要なものと思えた。


「はい、わかりました」


扉は重くゆっくりと開かれる。

いつもの彼じゃない、そう思ったけれど、そんな余計な事を口に出す趣味はない。笑っている記憶が多いせいか、彼に宿る違和感は消えなかった。

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