どうかしてる
俺の呼びかけに返事をし、小さな足音を立てながらナマエが姿を現した。
俺が貸した昔着ていた服は彼女にしたら少し大きいようだ。日本人は小柄と聞いていたけれど、本当にそうなんだなぁと改めて思う。
なんですか?と聞いてくる彼女に、にこりと笑顔を向けて俺の友達を前に差し出した。一目見て理解したのか、ナマエは目を見開いて驚いている。
「ナマエ、紹介するよ。彼は俺の友達の本田菊。見ての通り、日本人だよ」
やはり彼を連れて来て正解だったかもしれない。ナマエの表情が、少しだけ軽くなった気がする。
「初めまして。名前さんですね?フェリシアーノくんから紹介したい人がいると言われて来たのですが…貴女のことだったんですね。どうぞよろしくお願いします」
「あ、はい!えと、初めまして本田さん」
「ふふ、菊でいいですよ」
「は、はい!き、菊さん!」
自己紹介をしながらたどたどしくも握手をする二人を見て、兄ちゃんもこの場にいたらよかったのにって思った。こんな和む空間滅多にないよ。
だけど握手をしたときにナマエがビクリと肩を震わせて、見てはいけないものを見たような顔で菊を凝視した。俺も菊も不思議に思ってかどうしたの?と尋ねるけれど、ナマエはなんでもない、と作り笑いを見せた。
気にはなったけど深くは追求しない。したってナマエは話そうとはしないだろうから。
「俺何か飲むものいれてくるよー。二人はそこで寛(くつろ)いでてくれていいからさ」
「そうですか。じゃあお言葉に甘えましょう。さ、名前さんも」
「あ、はい…」
菊に連れられてソファーへと向かう二人の背中を少し見送って、俺はキッチンに姿を隠した。
「なんだかなぁ…」
ナマエにはきっと、秘密がある。俺にも兄ちゃんにも言えないような秘密があって、それを誰かに打ち明けたいけど出来ないでいるんだろう。
打ち明けられない秘密を持っているのはお互い様だけれど、ナマエが言ってくれないことに寂しさを感じた。俺たち自身のことすら言えないでいる自分のことを棚にあげて、彼女の事情を知りたがる俺はなんて最低な。
菊を連れてきたのは一つの賭けだ。自分と同じ日本人とわかるだけでも安堵感が芽生えるのだから、俺たちに言えないことも言えるかもしれない。
そうなったらなったで、なんだか…なんだか少し。
「悔しい、かも…」
出会ってまだ1週間もたってないのに。こんな感情持つなんて、どうかしてる。
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