まぁいっか


しばらく菊さんの家にお邪魔する形で私の問題はおさまった。でかけていたロヴィーノさんが帰ってきて菊さんやフェリシアーノさんから大まかに説明を聞くと、わかった、とだけ言って部屋に戻ってしまった。

その日は菊さんもルートさんも遅いからと此処に泊まることになって、いつも以上に夜が騒がしかった気がする。もうフェリシアーノさんのベッドで寝ても、何かを見ることはなくなった。


「おはようございます、名前さん」
「あ、おはようございます菊さん。昨夜は大丈夫でしたか?」
「ええ。ああいうところで寝るのは慣れてますから。まぁ少し、体が痛いですけど」


そう言ってボキボキと体を鳴らす菊さんに私は苦笑いをした。どんだけ堅いんだこの人…。


「名前さん。二日後、また迎えに来ますね」
「え?二日後、ですか?」
「はい。二日後です」


菊さんはそう言ってふわりと笑った。何で二日後なのか、私はそれが菊さんの優しさだと後で知るのだった。仕事があるから、と足早にルートさんと菊さんは帰って行った。

二人を見送りながら、私も後少ししたらこうやって見送られる側になっちゃうんだなぁなんて。ぼんやりと考えた。となりで一緒に見送るフェリシアーノさんを見ると、少し寂しそうな顔をしていてドキリとした。


「じゃ、俺たちは朝御飯にしよっか!」
「あ、はい…」


私のときもあんな顔するのかな。そう考えるとなんだか、気になってしょうがなかった。

ロヴィーノさんを起こしてようやくいつものように三人でご飯を囲む。菊さんに二日後なんて言われて更に意識しちゃうようになって。

あと二日しかこの二人と過ごせないんだってわかると、やっぱりちょっと、寂しいな。けど私が言いだしたことなんだし、いつまでも二人に甘えてらんないよね。しんみりした空気に浸っていると、フェリシアーノさんの明るい声が響いた。


「今日さ、大した用事ないからみんなで出かけない?」
「え?」
「だってあと少ししかナマエと過ごせないなら、何か一つ楽しい思いで作りたいなぁって」
「はぁ?っつってもお前、昨日上から仕ごッあだぁ?!」
「え?え?どうしたの?なに?」
「ヴェー、なんでもないよ〜。ナマエにね、イタリアの街を案内したいんだぁ」
「え、でも、私…あんまり外に出たら危ないんじゃ…」
「大丈夫!外にはあんまり兵士とかいないし、俺たちといれば問題ないから。ね!兄ちゃん!」
「〜〜〜ッう…ん」
「ほら兄ちゃんもうんって言ってるしね」
「(え?!今うんって言った?言ってないよね?でもフェリシアーノさん凄い笑顔だし…なんか変に逆らえない…)そ、そうだね。た、楽しみだなぁ!」
「ヴェー、俺も!」


きっと、気を使ってくれている。そう思った。だってフェリシアーノさんもロヴィーノさんも、仕事あったんでしょう?ロヴィーノさん、机の下で足を踏まれたんだと思う。私のせいでごめんなさい。

私、素直にありがとうって、こういう気遣いに気付かないまま日本へ行けたらよかったのに。なんでわかっちゃうんだろう。なんで気付いちゃうんだろう。本当に可愛くないな、って思う。

私にとって菊さんの申し出は凄くありがたかった。でもその半面、フェリシアーノさんの寂しそうな顔や、ロヴィーノさんのなんとも言えない空気が私の後ろ髪を引っ張る。私の右手にこんな力がなければ、こんな思いしなくて済んだのかな。この二人が国の化身じゃなくてただの一人の人間だったら、もっと素直になれてたのかな。

や、違うな。二人のせいでもこの右手のせいでもない。私のせいだ。私が怖がって距離を置くから変にこじれるんだ。


「今日はいっぱい観光しよう。それでいっぱい美味しいもの食べよう。疲れるまで遊んだら今日だけは三人で一緒に寝ない?」
「ぇえ?!」
「ななな!いいい一緒にだとコノヤロウ!何考えてんだこのバカ!」
「ヴェ、もちろん変なことなんて絶対にしないよ?」
「あ、あったりめーだ!してたまるかってんだ!」
「えーダメー?俺一緒に寝たいなぁ…だって…」
「わ、私はその!いいよ!一緒に寝ても!」
「え!本当?!わーい!やったぁ!グラッツィエ、ナマエ!」
「おお、お前な!そんな簡単に了承すんじゃねーよバカ!」
「え?だって何もしないって言ってるし、別に寝るくらいならどうってことないかなって。まぁ恥ずかしくないとは言えないけど」


顔を真っ赤にして恥ずかしがるロヴィーノさんを見てると、なんだかまぁいっかって思えてきちゃう。ふふ、イタリア観光、ちょっと楽しみだなぁ。

まさかあんなことが起きるとは夢にも思わなかったけど。

- 17 -

*前次#


top