一緒に謝ろうね


今日は良い天気だったしジェラートも美味しかったしナンパは成功しなかったけど色んな女の子と話せてあー楽しかったぁー!隣に立つ兄ちゃんも同じこと思ってるのか二人して顔が緩みっぱなしだ。あとはもう家に帰って明日の仕事に備えて寝るだけだなぁなんて考えて、ふと思いとどまった。


「っていうか何で街に来たんだっけ?」
「観光だろ」
「なんで?俺たち別に観光しなくたって…」
「なんでって…」
「「あ゙ぁーーー!」」


当初の目的を思い出し俺たちは顔面蒼白になった。すぐに彼女の姿を探すために辺りを見渡したけど、それらしい人影はなく、ただただ空がオレンジ色に滲んでいた。


「どうしよう兄ちゃん!ナマエがいないよ!」
「わわわわかってるっつーの!とにかく探せ!まだこの辺にいると思うから!」
「いなかったら?!変な奴に連れていかれてたらどうしよう!」
「待て待ておおお落ち着け!最後に俺たちがアイツを見たのはどこらへんだ?!」
「えと…俺は…あそこに座ってたような?」
「あー確かに…なんかあそこに座ってた気がする…」
「でもいないね…」


泣きそうになった。自分のバカさ加減に心底呆れ果てた。今日は彼女との思い出を作るために俺から誘ったことなのに。それすらも忘れて彼女をほったらかしにして自分ばっかりが楽しんで、もう本当あの時の自分を殴りたい。

自分たちはなんてことをしてしまったんだ、という罪悪感に見舞われ、彼女にもしものことがあったらと思うと背筋がぞっとした。知らない男に連れ去られていたらどうしよう、事件に巻き込まれていたらどうしよう、もしも兵たちに見つかって拘束されてしまったらどうしよう!

嫌なことばかりを想像してなんの解決策も浮かばない。周りの国から弱いと言われる理由がわかったかもしれない。女の子一人をろくに守れないようじゃ、なんと罵られようがしょうがない気がした。

同じように泣きそうな兄ちゃんと目が合って、俺は小さく彼女の名を呼んだ。なんですか?という返事は聞こえない。それがとても寂しくて、悲しくて、自分がやるせなかった。

目を離したのは俺たちのほう。彼女はどんな思いで俺たちを見て、俺たちの前からいなくなったんだろう。勝手にすればと溜め息をついて自らの足で消えたのか、助けてと思いながら知らない奴に連れ去られたのか。もし迷っているならどこかで泣いているだろうか?それならば早く見つけ出してごめんねと言わなくちゃ。震えているなら思いっきり抱きしめなくちゃ。

そう思っているのに、俺の足は動かない。何をどうすればいいのかがわからない。俺たちだけじゃ、彼女を探すことも見つけることもできやしない。そして俺は泣きながら電話をするんだ。お願いドイツ、助けてって。

靴ひもが結べないんじゃない。パスタを茹でる水がないんじゃない。手榴弾が投げられないからじゃない。そんなことじゃないんだ。

きっとドイツや日本に今まで以上に怒られるだろうけど、それを覚悟で二人にお願いがあるんだ。こんなことも一人でできない俺を許してなんて言わないけれど、どうか無事でいてほしい。

約束破ってごめんねナマエ。もし君が許してくれるならもう一度、今度はちゃんと、イタリアを案内するから。俺も兄ちゃんもどっか行っちゃわないように君の手を握るから。


「兄ちゃん…ナマエ、見つかるかな…」
「…見つかる、ってかぜってー見つける。んでビンタの一発でもかましてもらう。痛いのは…もちろん嫌だけど、な」
「ヴェ、そうだね。俺も叱ってもらわなくちゃだね。一緒に謝ろうね、兄ちゃん」


ぐしぐし言いながらあたりめーだ、と小さく呟いた兄ちゃんに、俺も耐えきれなくなって泣いてしまった。噴水のある大きな広場に二人、わんわんと泣きわめきながら立ちすくむ俺たちに、泣くな!と怒鳴るドイツと刀を突き付ける日本に出くわすまであともう少し。

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