女の子の名前は


「うわぁ、なに?何の用?」


仕事の休憩と称して家でくつろいでいるところにいきなり押し掛けてきたと思えば女連れ?なに?それお兄さんに対する嫌がらせ?それともその子紹介でもしてくれんの?っていうか二人ともぜぇぜぇ言い過ぎだけど何してたわけ?


「かくまえ」


それだけ言ってさっさと家に入るイギリスの後ろをちょこちょことついていく女の子。かくまえってイギリスを?それとも女の子を?また何かめんどくさいことが起こりそうだな、と小さく溜め息をついた。きっと今日も仕事は片付かないだろう。


「喉渇いた。なにかくれ」
「それが人にものを頼む態度?」
「いいからさっさと用意しろ。こいつの分もな」


そう言ってくい、と指をさした先にはソファーに座る女の子。何が珍しいのか家の様子をきょろきょろと見渡しては目を輝かせていて。ええ〜?なんなのマジで。


「誰?」
「知らん」
「は?まさかとは思うけど誘拐じゃないよね?」
「んなわけねぇだろ!バカ!」
「いやぁイギリスならしかねないだろ?見たところ幼そうだし…そういう趣味でもあるのかと…」
「どんな趣味だ!それはお前だろ!いいからさっさと飲み物持ってこいよ!」
「はいはい…」


まぁとりあえずお疲れの二人に温かい紅茶でも出すとするか。そう思ってキッチンへ行き、三人分の紅茶をいれたあとソファーのある場所まで戻った。女の子は未だに色んなところを目で追っていて、イギリスは相当疲れたのかぐでんぐでんになってソファーに置いていたクッションに埋もれていた。


「ちょっとちょっと。なにマジでまいってんの?お前が疲れるとかどんだけだよ。何と戦ってたわけ?」
「はぁ?戦ってねぇよ。走ってただけだ。ひっっったすらな!」
「なんで走ってたんだよ?」
「あ〜?」
「あ、はい、これ君の分の紅茶。熱いから気をつけてね」
「?」
「あれ?言葉通じない?見た所アジア人っぽいからしょうがないかぁ」
「せ」
「ん?」
「センキューベリーマッチ!」
「は?」
「こんのバカ!だからセンキューってなんだよ!Thank you! OK?!」
「お、オーケィ!」
「ったくもう…俺が必要以上に疲れる原因が自分だって絶対わかってねぇよコイツ…」
「あのさぁ…お兄さんにわかるよう説明してくれる?もうなにがなんだかさっぱりなんだけど…」


ここまで来た経緯とこの女の子といる理由などをイギリスが話している間、女の子は紅茶をちょびちょびと飲んでいた。思ったよりも熱かったかな?ごめんね。

様子を見るからに俺たちの会話を聞いてるわけではないみたいだ。どうやら言葉が通じないらしい。イギリスいわく、簡単な英語なら通じるらしいがそれ以外はてんで駄目。もちろんフランス語も駄目。なんつー困ったちゃんだ。


「でもなんでまたイタリア兵に追いかけられてたんだ?」
「さぁな。何かしでかしたんじゃねぇの?」
「よく助けたね」
「…そりゃ、あんな顔されたら助けるしかねーだろ」
「へぇ?どんな顔?」
「今にも死にそうな顔」
「はは、酷い」


紅茶を飲んで落ち着いたのか、少し眠たそうにする女の子に苦笑いをして見守っていると、急にイギリスがこちらをじーっと見始めた。男からの熱い視線なんて気持ち悪い、と思いながら何?と返せばぷい、と顔を逸らされた。マジでなに?ツンデレ発動?


「珍しいな」
「ん〜?なにが〜?」
「女が来たのに、浮かれてねぇ。いつもなら相手が引いて殴りかかるくらい鬱陶しいスキンシップくらいするだろうに」
「あのねぇ…ま、そういう君も珍しく紳士じゃないね?相手は女の子なのに」
「…、それは…」


お互いの見慣れない姿になんだか少しのむずがゆさを覚えた。別にね、普通の子だったら俺も普通の態度なんだろうけど、この子はちょっと違うっていうか。ワケアリっぽいし、あんまり近付いちゃ駄目な気がして腰が引けるっていうか。説明しにくいなぁもう。


「名前は?聞いた?」
「そういや聞いてないな」
「なんで今の今まで聞いてないのかが不思議でしょうがないよ。簡単な英語ならわかるんでしょ?聞いてみなよ。名前がわからないと何かあったとき呼べないし」
「…、おい。起きろ。寝るな」


夢の世界へ旅立とうとする女の子の肩を強めにゆするイギリスに、ぼんやりとした意識のまま女の子が目を開けた。目の前にいるイギリスに首をかしげ、少し鬱陶しそうに眉を寄せた。あ、きっと眠りを妨げられてちょっとイラついてるみたい。ぷ。この子面白いなー。


「What's your name?」
「?」
「your name」
「!、えと、名前」
「ん?」
「ま、マイネームイズ、名前」
「あーもう。こいつの英語聞いてると一から教え直したくなる」
「まぁまぁ。聞き取れるんだからいいじゃない。それよりもナマエでいいのかな?」
「?」
「あー…、ナマエ?」


こくこく、と首を縦に振るようすからして女の子の名前はナマエ。とりあえず聞けるだけのことを聞くために、イギリスとナマエのやりとりを見てるんだけど、これが面白いのなんのって。

だんだんイライラし始めたイギリスが早口の英語でナマエを捲し立てるのも時間の問題だなぁと思った。まぁ、言った所でこの子には何一つ伝わらないと思うけどね。

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