願わくばどうか


あれから二日が経ってしまった。あれからと言うのは彼女がいなくなってからのことで。たった二日、そう言えたらどんなに楽だろうか。こんなにも1分1秒が長く感じたのは酷く久しぶりな気がした。


「どこにもいませんでしたね…」


あの日泣きじゃくるイタリアくんたちに駆け寄った後、手分けして探してみたけれど彼女は見つからなかった。その日は朝日が昇るまで街を駆けまわって終わり、二人は寝ることもせずに自分たちの上司へと事情を話しに行った。そして連絡を待ち続け二日目が終わろうとしている。

私の頭の中には二つの可能性があった。一つは誰かに連れ去られてしまったか、もう一つは…。


「あの、一つ気になっていたことがあるのですが…」
「?、なんだ日本。言ってくれ」
「名前さんは日本人なんですよね?」
「ヴェ、そうだと思うけど。だって日本語話してたし顔立ちだって日本とそっくりじゃない」
「それがどうしたんだよ」
「…日本人なら、いえ、日本人じゃなくても誰もがそうだと思うのですが…みなさん名前を名乗るときどう名乗りますか?」
「?、普通に言うが?」
「その普通とは?」
「え〜?フェリシアーノ・ヴァルガスって言うけどー?」
「そうでしょう?」
「何が言いたいんだよ」
「私には本田という名字があります。ですから名乗るときは本田菊と言うのが当たり前です。でも彼女はそうしなかった。何故か名前しか言いませんでした」
「!、そういえば…そうかも」
「ファミリーネームがないとかじゃねーの?」
「もしくは言いたくなかったとか?」
「名字がないだなんて、日本では少し考えにくいですね。言いたくないのなら、偽って言うこともできます。でも彼女はそうしなかった。私は何故だかずっとそのことが不思議でしょうがなかったんです」


だからといって、それを深く追求することもしなかったし、今のこの話が彼女を見つける手がかりにはならない。関係のない話をしたことに若干の気まずさを覚え小さく謝罪した。

それでも私はそのことをどうでもいいと終わらせることができないまま、心の中でもやもやと残していた。言わないのか、言えないのか、言いたくないのか。こんなわだかまりを与えたままいなくなってしまった彼女に、もう一つの可能性を予想した。元の世界に帰ってしまったのではないのかと。


「(こんなこと、考えたくないですが…)」


最後に彼女に会ったとき、二日後に迎えに行くと言ったことを少し後悔した。あの時、無理にでも私のところへ連れて来ていればこんなことにはならなかったかもしれない。彼女にとってイタリアくんたちの存在は少なくとも私やドイツさんよりかは大きいはず。だから直ぐにとは言わず、彼女なりに彼らと楽しい時を過ごせればと思って時間を与えたつもりだった。


「ごめんね、日本」
「え?なぜイタリアくんが謝るのです?」
「俺たちの所為で、ナマエがいなくなっちゃって、二人にも迷惑かけて…」
「そんなこと、迷惑だなんて思ってないですよ?」
「でも、直ぐにでも日本の元へ送っていたらこんなことにはならなかったでしょう?」
「それは…そうかもしれませんが…」
「ごめん。今更こんなこと言ったって日本が困るだけだよね。ごめんね、今の忘れて」


もし本当にトリップだとして、彼女が別の世界から来ていたとして、それはなんのために、誰が彼女を此処へ連れてきたのでしょう。願わくばどうか、彼女が無事であるようにと。元の世界へ戻っていないようにと。

私たちの元へ報告をしに息を切らして入ってくるブルガリくんを、あともう少し待ってみようかと思う。

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