お伽噺であるのなら


「俺の名前はフランシス・ボヌフォワ。まだちゃんと自己紹介してなかったね」


そう言って笑って見せたけれど、これから彼女が話すことに笑う要素は一切ないような気がした。イギリスがいなくなった今、この部屋には俺と彼女の二人だけ。さきほどと同じように、向かい合って座っているはずなのに、何故か距離を感じるのはきっと俺だけじゃないはずだ。


「で?なんで急に話せるようになったのか理由を教えてくれるんだろう?それとも今までのは演技だったっていう衝撃の告白でもしちゃう?」


俺が見ていた限り、初めから全部演技でしたと言われても嘘にしか聞こえない。あれが演技なわけないと思ったからだ。まぁこれは俺の直感。意外と当たるのよ?


「全部が全部、演技ではないです。少なくとも初めてお会いしたときは本当にわかってませんでした」
「うん。それで?」
「…、えと、なんて説明したらいいか…」
「どんな言い方でもいいから言ってみてよ」
「信じられないと思います。今から私が言うこと…」
「へぇ?どうして?話してもないのに言い切れるの?」
「言い切れます。だって、私自身がさっき気付いたことですし、その事実が本当かどうかわからないからです」
「ふーん。でもそうやって勝手に判断されるのは正直あまりいい気分ではないね。俺には俺の理解と判断があるんだから」
「そ、れは…そう、ですね…」
「ね?だから言うだけ言ってみてよ。信じる信じないは別として、俺は知りたいと思うから」
「…わかりました」
「やっと言葉が通じ合えるんだから。話さなきゃ損するよ?」


バチン、とウィンクを飛ばし決まった…と心の中でカッコつけるくらいは許されるだろう。何せようやく彼女が笑ったんだから、良しとしようじゃないか。


「それじゃあ、お話ししますね」


そう言って話し始めた彼女の目は真剣そのもので。彼女の言葉に嘘はないってわかる。その国の料理を食べたら言葉がわかるだなんて、信じられない話だけれど、実在する話であって。現に彼女はこうして話しているわけだし、これはもうどう理解するかなんて決まっている。

相槌を打ちながら聞き入れるそれが、もしお伽噺であるのなら結末はハッピーエンドのほうがいい。けれど俺が思うに、どう考えてもバッドエンドになってしまうのはあいつがいるからだろう。


「なぁ、言葉を理解するにはその国の料理を食べなきゃいけないって言うなら…それはまた酷な話だよなぁ」
「本当にそうと決まったわけじゃないですよ?」
「いや、もしそうだとして…一つ言っておくよ」
「?、はい」
「イギリスには気をつけろ、とね」
「え?イギリス?どうしてですか?」
「んー、それはその時のお楽しみ〜」
「???」


でも案外、彼女ならぺろりといっちゃうかもね。

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