そんなバカなことって
それはあまりにも突然だった。彼女を預かることになって三日。ずっと家にこもっているのも退屈だろうからと外へ連れ出したことが問題だったのかもしれない。
体調が悪いようには見えなかった。いや、そう振る舞っていたのかもしれない。だけど外へ行こうかと声をかけ、彼女に似合う服を差し出したときに見せた笑顔に、曇りなんてどこにも感じられなかった。ただ純粋に笑って、ありがとうと言ったのだ。それなのにどうしてこんなことに?
凄く息苦しそうに顔を歪めて、それでもなんでもないという彼女に、俺はどうしたらいいのかわからなくなった。
さっきまであんなに楽しそうに街を見ていたのに。ふと彼女をあそこへ連れて行こうとして手をとった。俺の行先を知らないはずの彼女が「そっちには行きたくない」と言った。
「ナマエ?」
名を呼んでも首を横にふって行きたくないと言う。どうして?と言ってもどうしても行かなきゃだめですか?と返ってくる。どうしても、というわけではないけれど、案内しようとしていた場所が場所で。行きたくないと言われると、さすがの俺も少し悲しいわけで。
「綺麗な場所なんだけどなぁ…」
俺のこぼした小さな声が聞こえたのか、彼女は少し困った顔をして。そんなに綺麗な場所なら行ってみようかな、と笑って。だから大丈夫だと思った。
近づくにつれて彼女の様子がおかしくて。中央の広場まできたところで彼女はとうとう歩けなくなってしまって。
どうしたの?と慌てて駆け寄る俺なんか視界に入ってない。ただ震える体を抱きしめるようにうずくまって、そこから漏れる声は熱い、やめて、怖い、痛い。熱い?
「ナマエ?どうした?!」
「ふ、らん…しす、さ…あ、熱い…これは…だ、れ…?ここ…っで、なに、が…?」
「?!…ナマエ…何が見えてるの?」
「あつ、い…よ!ふらん、しす…さ!」
「ナマエ?!」
熱い、そう言って苦しそうにもがいたあと、ふと意識を飛ばした彼女はどさりと倒れてしまって。タイミングを見計らったようにポツリ、ポツリ、と雨が降り出した。熱いといった彼女の体を冷ますように。
何が起きた?俺に見えないなにかに怯えていた?だってここは、この場所は、俺にもイギリスにとっても忘れられない場所で。何かあったのかと聞かれると、答えは一つしかなくて。
「…魔女だなんて、誰が言ったんだか…君はただの、女の子だったはずなのにね」
ここにはいないあの子へと告げた言葉は、勢いをつけた雨によってかき消された。俺の体からも体温を奪っていくそれにいつまでも打たれている理由はなく。眠ってしまった彼女を抱き上げて家へ帰ろうと、彼女に触れた瞬間、それは見えた。
「ッ?!なん、だ…これは…?!」
一気に流れ込んでくる大量の情報と記憶。誰のものかなんて、そんな、そんなバカなことって。
「ナマエ…君はいったい…本気で何者…?」
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