もう一度ありがとう
ずっと抱えていた重いものがとれた気がした。心がすーっと軽くなって、そうか、もうあの子を重荷に感じる必要はないんだと。あの子のことを俺は胸を張って誇っていいんだと、そう思えるようになった。
淡い気持ちとともに罪悪感があった。まだ幼い少女だというのに、俺のためなんかに失っていい命なのかと考えたこともあった。戦場へと行くと言ったあの子をどうして止めなかったのかと後悔したこともあった。あんな最期、俺たちのことを憎んで当然だと思った。
けれど、そうじゃなかった。そうじゃなかったんだ。
幸せだったと、確かにそう言ってくれたあの子の言葉に、思わず泣いてしまったね。
「ナマエ…ありがとう。君のおかげで俺は救われたよ」
「そう、ですか…なら、良かったです」
「自分の死にいつまでも囚われないで、自由になっていいと言われた気がしたよ」
「フランシスさんがそう感じたってことは、彼女がそう言ったのと同じですよ」
「うん。でも…忘れるわけじゃない。俺はこれからもあの子のことを世に伝えていくし、あと何年かしたらお墓を作ってあげようと考えているんだ」
「素敵ですね。きっと喜ぶと思います。もしかしたらその時にはもう、生まれ変わっているかもしれませんね」
「そう願うよ。あの子がまた此処に生まれようものなら、きっとすぐわかるだろうから。俺は国だからね」
「そうですね…」
「………」
「?」
「…、やっぱり、驚かないんだね」
「え?」
「知ってるんだろう?俺がフランス国という国の化身だってこと」
「え?…、あ!や!そ、それは!え?!な、なんで!」
「別に隠さなくていいよ。俺は全部知ってしまったから。だから君があの子の気持ちを代弁できたのも納得できるし、俺は君の存在を信じれるよ」
がばり、と俺の腕の中から顔を出した彼女は酷く驚いていた。頬に光る涙のあとに何故だか愛しさがこみあげてきて。あーあ、本当のところ抱き心地が良かったからもう少しあのままでいたかったのになぁなんて。
「全部知ってるって…!どういうことですか?!私言ってません!」
「そりゃあ君の口から聞いたわけじゃないからね」
「じゃあなんで!」
「全てを理解した上で結論を言うと…どうやら君は念が強いものにあたると自分の感情や体調が凄く不安定になる。その状態で意識を飛ばしたりなんかすると制御が全くできなくなる。そんな君に誰かが触れたりしたら…逆の現象が起こる、というわけ」
「逆の現象?」
「ナマエは右手で触れると、その触れたものが持つ過去の記憶や情報が流れこんでくるんだろう?その逆で、あの状態のナマエに触れると君の持つ情報が俺に流れ込んできたってわけ。だからナマエが今までどこにいて何をしてきたかっていうのも、そういう変な力があるってことも俺は知ってるってこと」
開いた口が塞がらないまま、唖然と俺の話を聞くその口を俺ので塞いじゃってもいいのかな〜?と思っていたら顔を真っ赤にして口を閉じて俺を睨んできた。あれ?なんでバレた?
「もしかして俺に触れてるから気持ちがそっちいっちゃった?」
「違います!口に出してましたよ!」
「あ、なーんだ。うっかり」
「もうなんなんですか…人がせっかく真剣にどうしようかと悩んでいたってのに。なんでそんなに軽いんですか」
「なにを悩む必要があるのさ。俺が信じてるって言ったのが信じられない?日本みたいに耐性がないから?イタリアやドイツみたいにはいかないって言いたい?」
「そ、れは…」
「この世界で俺ほど君の力を誰よりも理解してるやつなんていないと思うけど?」
なんて。ちょっとかっこよく言ってみたけれど、それは彼女を笑わせたかったからで。
「なんで、泣いちゃうかなぁ」
一旦離れてしまった体だったけれど、もう一度今度は優しく引き寄せて髪を撫でた。日本人らしい黒い髪は指どおりがよく、ブロンドを見慣れている俺としてはずっと触っていたい感触だと思った。やらしい意味ではなくてね。
「信じさせてよ。じゃなきゃ、折角ナマエが言ってくれたあの子の言葉が嘘になっちゃうだろ?それともあれは本当に嘘だったのかい?」
「ち!違う!」
「ならいいじゃない。ほら、早く泣きやんで?」
「これは!…っ、嬉し泣き、です!」
何度ありがとうと言っても言い切れないほどの感謝が彼女にはあって。俺の存在が少しでも彼女の力になれるのなら、喜んでこの身を捧げようと思ったこの気持ちに、いつかのあの子のようだと思った。
「(そうか…だからあの子は…)」
ぐずぐずと腕の中で泣きじゃくる彼女の髪にキスを落とし、もう一度ありがとうと言おう。ありがとう、ナマエ。ありがとう、我が国が誇る愛しい少女。
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