昼下がりの出来事
フランシスさんに私のことがバレて数日。自分から言おうと思っていたのにすでに知っていたとか、もうなんなの。おかげで変な気遣いはいらなくなったけれど。
「ナマエ、俺ちょっとでかけてくるからお腹すいたらキッチンにあるの適当に食べていいからね」
「あ、はい。わかりましたー」
いつものラフな格好ではなく、余所行きの服でドアの前に立つフランシスさんに心の中で男前だなーと思っていた。一応見送りという形で棒立ちしている私を、フランシスさんがじーっと見つめてくる。え、なに?私の顔なんかついてる?
「………」
「?、行かないんですか?」
「行ってらっしゃいのチューはないの?」
「っは?!あ、ありませんよそんなの!バカなこと言ってないで早く行ったらどうですか!」
「そんな怒らなくても。冗談なのに〜」
「タチの悪い冗談ですね!」
「じゃ、俺は行くけどくれぐれも危ないことはしないこと。誰か来ても居留守決め込んでいいからね。俺が帰ってくるまで絶対ドア開けちゃだめだから。出たらすぐ鍵しめること。いいね?」
「はいはいはい。わかりましたよもう。子供じゃないんですからそんな心配しないでください。勝手に逃げたりしませんって」
「もう。そういう意味で言ったんじゃないってば」
アーサーさんに見張るよう言われていると正直に話してくれたフランシスさんに、私は別に逃げたりしないのになぁと笑った。実のところ見張るとか見張らないとか、そういうのはどうでもいい。ただ私は、アーサーさんがそういう目で私を見ていたってことに少しだけショックだった。悪い奴じゃないんだ、と苦笑いをするフランシスさんに、私は一つだけどうしても聞けないことがあった。
あの子の最期の場所で、群衆に紛れてアーサーさんがいたこと…フランシスさんは知っているんだろうか。彼女を殺したのはイギリスだと言っても過言ではないだろうし、フランシスさんはアーサーさんのこと恨んだりしてないんだろうか。でもそんなこと、私が聞いていい話じゃないだろうし。
行ってきます、と笑って出ていくフランシスさんを見送りながら、私はしばらくこの問題が頭から離れないだろうなと思った。
「…はぁ…」
広すぎるフランシスさんの家は大層豪華で。用意された自室も広すぎて落ち着かないし、使用人みたいな人もいるらしいけど会ったことないし。丁度日当たりのいい場所にあるソファーに座ってごろごろするのが最近の私の日課になっていた。
こうもすることがないっていうのは本当に暇でもう寝るしかない。でも今こうして寝てしまうと夜が寝られないしなぁ〜なんて。そんなことを考えていると家のチャイム?呼び鈴?が鳴った。え?人?
何やらフランシスさんの名前を呼びながら、やたらとドアをドンドンと叩いている。ええーなんか怖ぁー。ソファーで縮こまって様子をうかがっていると、どうやらその人はいなくなったようで。しーんとした空間が戻ってきて、ほっとした瞬間だった。
「ばばーん!俺様の登場ー!なぁに居留守使ってやがる!いるのは知ってるんだぜー!」
「ひゃわぁああ?!」
「あ?」
「あわわわわわわ」
「…、誰だお前」
「それこっちのセリフだっつーの!」
「なんだ。お前俺様のこと知らねぇのか?」
「これっぽっちもね!じゃなかった!ふ、不審者!不法侵入者!どうしよう!は!警察!110番!」
「待て待て待て!俺はフランシスのダチだ!」
「そんなの口でいくらでも言えるわ!」
「だーかーらー!俺は今日あいつと約束しててだなぁ!」
「ぎゃー!こっち来るなぁー!やだやだ怖いあんた怖い!フランシスさーん!」
「んな!失礼な奴だなお前!人を犯罪者みたいに!」
「ギリギリ犯罪者じゃん!今私を殺そうとしてるじゃん!」
「してねぇー!まだしてねぇだろ!」
「まだ?!じゃあこれからするんだ!こ、怖い!私こんなとこで死にたくない!」
「ああ!もう!人の、話を、聞けってんだ、よ!」
逃げ回る私を追いかけ、とうとう逃げられない隅っこへ追い込んだこの不法侵入者は不気味にケセセと笑いながらもう逃げられないぞーと言った。いやだいやだいやだなにこれ怖い怖い怖い。ジリジリと近づいてくる赤い目が恐怖!
でもなんでだろう。不思議とこの人、嫌な気がしないっていうか。でも不法侵入者には変わらないし、現にこうやって私を追い込んでくるし犯罪者決定だよね!
「ほぅら、もう逃げられないぞ?で、だ。フランシスはどこだお嬢ちゃん」
「ひぃぃぃ!ふ、フランシスさんは出かけたのでここにはいませんんん!」
「あ?でかけた?」
「よ、用事があるとかなんとかで…」
「………」
「………」
「…ふむ。入れ違いか」
「っは?!」
「っつーかよ。お前誰?長いことフランシスとつるんでるけどお前みたいなやつ見たことねぇぞ?あ!さてはお前あいつの愛人か?!」
によによと気持ちの悪い笑みを浮かべながら私を見るその顔に、近くにあったクッションを思いっきり投げつけてやった。ぶ、と後ろに倒れたその人のお腹に馬乗りになって、いまだに顔の上にあるクッションをぎゅーっと上から押さえつけた。殺さない程度に窒息させて気を失わせよう作戦だ。
もがもがふがふがばたばた。手足がものすごく動くなか、この人も必至。私も必至。あともうちょっと、ってところで急にドアが開き部屋にフランシスさんが入ってきた瞬間、何事?!と叫んだ。同時に私は泣きながらフランシスさんの名前を呼んで、私の下にいる人は静かになった。
「変態がいます!」
「あ〜…っと、何から説明しようか…」
眠気も暇も吹っ飛んだ昼下がりの出来事でした。
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