弱い私


ヴェストがお前のこと探してたぞ!そう言われても私はそのヴェストって人知らないし、どうしようもない。フランシスさんはフランシスさんで意味がわからないという顔をしているし。

一人満足気に私を見てそうかーお前がナマエかーと納得しながら自己完結をしていた。だからヴェストって誰!


「そういえばナマエはこいつの弟と面識があったはずだね」
「え?弟?変態さんに弟いるんですか?」
「変態さん?!俺はギルベルト「こいつの弟はドイツ。ルートヴィッヒって名前だ。知ってるだろう?」
「え!あ!うそ?!ルートさんのお兄さん?こんなのが?!」
「そう。こんなのが」
「おい!お前ら俺の扱い酷くないか?!」


彼の話によれば、私がイタリア兵に追われてアーサーさんに助けてもらった日から彼らは私を探し続けてくれているみたいで。フェリシアーノさんやロヴィーノさんだけでなく、菊さんやルートさんをも巻き込んだ捜索がされているなんて。私はこんなところでのんびりと過ごしている場合じゃないと、ものすごく焦った。


「心配してたぞ?特にイタリアちゃんたちはひどかった。あの二人があんなに必死になってお前を探してんだ。お前早く帰ってやれよ」
「…でも私…」
「帰れない理由でもあんのか?ねーだろ」
「ちょっとギル。ナマエにも事情があるんだって。それに今は…」
「なんだよ。折角あいつらが探してる人物がここにいるってのに、俺は家に帰ってもヴェストに何も言ってやれねーのか?そんなのおかしいだろ」


私は今、どうしてここにとどまっているのだろうか。フランシスさんに頼み込めば彼らの元へ帰れるはずなのに。なんとなく、彼らに会うのが怖かったりする。そのせいなのか、足が動かないんだ。

そんな私の心情がわかるのか、彼は私の目の前に来て私をじっと見下ろしている。赤い目が、私の心を射抜く。


「会ったときの威勢はどこいったんだ?」
「…うるさい」
「あいつらのこと嫌いなのか?」
「そんなわけない!」
「じゃあなんでお前はこっから動かないんだ。フランシスが優しいからって甘えてんじゃねぇ!」
「ちょっとギル!」
「うるさい!なにも知らないくせに!」
「ああそうだな!俺は別にお前がどこにいて何してようが関係ねぇ!何も知らねーのも事実だ。けどな、弟や俺の友達が必死になって探してる姿見て何も思わねーわけねーだろ!」
「私は、私だって…!」
「お前が自分から動けないってんなら、俺が連れてってやる」
「!」


私だって会いたい。フェリシアーノさんが作るパスタが食べたい。ロヴィーノさんが作るトマト料理が食べたい。菊さんとの約束も果たさなきゃいけない。ルートさんのことももっと知りたい。

だけど、私はこの世界の人間じゃないから、簡単に忘れ去られてしまうことだってあるかもしれない。現に私の記憶がここの思い出に書き換えられてしまうように、彼らも私と過ごした記憶なんてすぐに消えてしまうかもしれない。

もしかしたらあの日も自分から逃げたんじゃないかって思われていたらどうしようだとか。彼が聞いたらくだらないと言われそうなことでも、私にしたら全然くだらなくなんかなくて。

フランシスさんの優しさに甘えて、アーサーさんのことも気になって。結局私は自分が傷つかないように自分を守ることしか考えてなくて。私のことを思ってくれている人たちのことを、ちゃんと大事にできなくて。

そんな自分が情けない。かっこ悪い。不甲斐ない。彼に言われたことに間違いなんかなくて。正当なことを言われて逆切れして。私、最低だ。

泣いたって、何も変わらないのに。


「泣くぐらいなら初めから意地張ってんじゃねぇよ」
「…う、るさい…」
「おいフランシス。俺はこいつを連れていくが、お前はどうすんだ」
「はぁ…まぁ、止めたって無駄だろうから好きにしたらいいよ」
「!」
「ナマエ、言っておくけどこれは突き放してるわけじゃない。遅かれ早かれこうなってたんだと思う。アーサーには俺からうまく言っておくから、全部ギルに任せてみたら?」
「…信用できない…」
「お前なぁ!」
「俺の言うことも信用できない?」
「………フランシスさんは、違う…」
「ん。いい子だね」
「おい。この扱いの差はなんだってんだ」


溜め息をつきながら頭をかく目の前の彼は随分と呆れた顔をしていて。どこもにもルートさんを思わせる面影がないことになんだか本当に兄弟なのかどうかも疑わしい。そんなことを思っているとそれじゃあ行くか、と言って彼は私を担ぎ上げた。


「ぎゃあ?!」
「うわ。色気のねぇ声」
「ちょ!おろしてよバカ!なんで担ぐの?!」
「このほうが手っ取り早いだろ」
「自分で歩けるっての!おろせー!」
「ぐわ、ちょ、暴れんな!じゃあフランシス、あとはよろしくなー」
「え!ちょっと!やだやだフランシスさーん!」


苦笑いをしたまま手を振るフランシスさんがだんだんと小さくなっていくのを見て、ああ私本当にここからいなくなるんだって思った。アーサーさんに変な誤解を残したまま私はフランシスさんに見送られ彼に攫われる。

ふと体を支えるために触れた右手から彼の記憶が流れ込んでくる。聞いたことのないプロイセンという国が生まれた瞬間、荒れ狂いながらも突き進んできた彼の物語の中で、可愛らしい男の子がいた。綺麗な金色の髪に青い瞳がルートさんを思い出させる。その子を見る彼の表情はとても柔らかく、大事に大事にしてきたんだなぁって、強く伝わってくる。


「なんだよやけにおとなしいじゃねーか」
「強引に連れてこさせといてよく言うよね」
「イタリアちゃんたち泣いて喜ぶだろうなー」
「………」
「俺様いいことしてるぜー」
「………とぅ…」
「あ?なんか言ったか?」
「ありがとう、ギル…」
「え?!」


弱い私を引っ張ってくれて、ありがとう。ギルがいたら、彼らと会うのも怖くない気がした。

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