彼らとの意思疎通


ご飯、美味しかった。だけどその美味しさに泣いたんじゃない。口に含んだその温かさが胸にしみて、鼻の奥がツンとなって、涙が我慢できなかった。

日本語で美味しいと言っても伝わらないだろうと思ったけど、言葉に表したかった。決して不味くはない。むしろ不味いだなんて失礼すぎるほど美味しい。

人の泣顔を見ながら食事だなんて、さぞ嬉しくない場面に立ち会いつつも、彼らは嫌な顔一つしなかった。撫でられた掌の温もりと、今日食べたご飯の味は一生忘れられないだろうな。

そして不思議なことが一つ。食べていくにつれ、彼らの話す言葉の意味がわかってくるのだ。と、言うよりも、なんだろう?なんて言ったらいいのかわからないけど言葉に表すとしたら、字幕で見ていた映画をいきなり吹き替えに切り替えたというような。そんな感じ。

パスタを完食する頃には彼らの話し声は全て日本語として私の耳に伝わっていた。何?これなんて力?彼らの魔法?ぽかん、と雑談する彼らを凝視している私に気付いたのか、ふにゃりとした顔の人が私に話しかけてきた。


「どうかした?」


やっぱり!日本語で聞こえる!す、凄い!少し感動していると、その奥に座っていたもう一人が溜め息をつきながら話しかけてきた人の頭をはたいた。なんてバイオレンス。


「だ・か・ら!何度言ったらわかるんだよテメーは!言葉通じねーのに普通に話しかけてんじゃねーよバカ!」
「ヴェーだってー」
「あ!あの!」
「え?」
「わかります!言葉!通じます!」
「は?」
「ほら!伝わってますよね?私の言葉、聞こえてますよね?」
「わー!本当だー!なんでー?」
「ななな?!なんでいきなり?!は!お前今まで聞こえないフリしてたなちくしょー!」
「え?!け、決してそんなことは!」
「じゃあなんで今になってわかるんだよ!」
「それは私にもさっぱりわけがわかりません…ただあのパスタを食べてからっていうか…」
「おいバカ弟。てめー今日のパスタに何かいれやがったな?」
「ええー?!そんなことしないよー!いつも通り作っていつも通り盛り付けしただけだよー!変なことなんてしてないから許してー!ぶたないでー!」
「じゃあ何でパスタ食ったら喋れんだよコノヤロー!」
「お、俺に聞かれてもー!」
「あの、私が言うのもなんですが、とりあえず落ち着きましょう?」


突然理解できるようになった彼らの言葉、通じた私の声。この短時間で何度か願った彼らとの意思疎通が、意外にも早く叶ってしまったようだ。

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