なんて優しい


朝起きて隣に弟がいないことに気付いた。ねぼけた頭でそう言えば今日は会議だとか言っていたような。盛大に放った欠伸のあと、なんで昨日は一緒に寝ることになったんだっけな、と考えて。


「あー…そういやぁ…」


のろのろと起き上って向かうは隣の部屋。フェリシアーノの部屋に軽くノックをしたが返答がないためゆっくりとドアを開けた。

そこには弟のベッドですやすやと眠る一つの影。ややこしい事情を抱えた女、ナマエだ。昨日はこいつがここで寝るまで一悶着があった。あれにはさすがに疲れたな。そんなベッド一つで何を気にしていたんだか。

昨日の時点でナマエについてわかったことと言えば、名前と歳と出身が日本だってこと。どうやって此処に来たのか、何故追われているのか、どうして俺たちの言葉がわかるようになったのか。不思議なことが多すぎて全然理解できない。

身を隠す場所として咄嗟に選んだのがこの家とは、こいつも運がいい。国の化身としてこの家に住まう俺たちに出来ないことはない。まぁ、それをこいつに明かす気はねーけどよ。

どうせすぐ自分の国へ帰るんだ。わざわざトップシークレットを話す必要なんてない。一般人が知るにはあまりにも重大すぎるからな。

そんなことも知らないでぐっすり眠るナマエの横に腰をおろし、起きる気配がないのを確認して盛大に溜息をはいた。


「(髪…黒いな…見た目ほど固くない。ふわふわ?違うな。なんつーか、髪の毛なのに柔らかい…肌は白いけど、フェリシアーノのほうが白くねぇか?まつ毛も、俺のほうが長いし…手触りは…意外に良いな…)」


寝てることをいいことにまじまじと観察をしていると、少し不快に感じたのか、眉を寄せ唸り始めた。起きるかと思って慌てて避けた手は空中で居場所をなくし、唐突に恥ずかしくなって変な汗が出た。

けれど、俺の焦りも虚しくナマエは起きることなく寝がえりをうっただけだった。


「驚かすなよこのやろー!」


なんだか気疲れしてとりあえず部屋から出ることにした。そのまま一階に下りて洗面所へいき顔を洗ってリビングに行くと弟が書いたであろう手紙が置かれていた。

Buongiorno!と始まるそれに目をとおしてから少し休憩。腹減ったし、とりあえず朝飯食うか。

簡単なものでいいか、と思いながら作り始めた朝飯に、あいつを起こしたほうがいいのか悩みに悩みまくった。フェリシアーノの手紙にも疲れてるようだから起こさないであげてね、と書かれていたし。

起きたら勝手に下りてくるだろうと決めつけ、とりあえずあいつが腹減ったと言ったときのために一人分作って置いといてやるか。

俺ってばなんて優しいんだ。あー感激。

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