彼がイタリア


夢を見た。いや、それを夢と言うにはあまりにも現実的で鮮明だった。

男の人のベッドで寝ることに少し抵抗があったけれど、強引に二人にこの部屋に押しやられて逃げることすらできなかった。直ぐに降参してベッドに入った途端、自分が思っていた以上に疲れていたのか、あれこれ考える暇もなく眠りに落ちていた。

そこで見たものはなんとも言い難い映像だった。

白くふわふわした感じの女の子が一人、寂しそうな顔で町並みを見下ろしている。あれは私ではない。全然知らない子だ。

そんな女の子のそばに一人の男の子がやってきて二人で何かを話している。男の子がきた瞬間寂しそうな顔を消した女の子は、何事もなかったかのように話し始めた。内容は聞こえない。ただ和やかに話す二人を遠目で見ている感じだった。

私は少し驚いていた。その状況にじゃなく、女の子がもつ精神的なことに。これくらいの子供ならば、もっと感情に素直でもいいんじゃないかと思うのだけれど、あの女の子は違った。

隠すというより、押しこめるといったような。消すというより見ないふりというような。結局は心の奥底でたまっていくその寂しさに、あの子は耐えられるんだろうかなんて考えた。

場面はふと変わり、人々の争う様子や炎の燃え上がる大地。一目で、戦争だとわかった。

誰かの泣き声が聞こえる。どうして、と悲願する声に胸がしめつけられそうになる。

後ろから聞こえるそれに振り向いたら、うずくまって泣いている一人の青年がいた。所々服が破れていたりで凄くぼろぼろでどろどろだ。いつぞやの私みたいに。

右手に持つ白旗が赤く茶色く汚れている。声は、かけられそうにない。どこかで見たことのあるようなこの青年に、私は何もしてあげられない。

いつもあんなに明るく笑っているのに、今はその笑顔がどこにもない。


「(?、なんで私、この子がいつも笑顔だって知ってるんだろう?)」


挿し延ばす手もかける言葉も見つからない。なんだか私までもが悲しくて、そして切ない。戦争は何も生まない。こんなにも心を痛めて泣くこの人を、誰かが守らなくては。それを出来るのは私ではなく、私ではなく。


「(フェリシアーノさん…、ッ?!)」


何故、今、彼の名前を呼んだのかはわからない。自然に口から出た言葉に、驚くと同時に、嫌な胸騒ぎがした。ドクドクと心臓の音が早くなる様がとても夢とは思えないくらいだ。


「フェリシ、アーノさん…?」


もう一度、今度は声に出すように呼べば、その青年はふと泣くのをやめた。ゆっくりと起こされる頭に見えたのは、くるんと巻いたそれ。


「(ああ、そんな、まさか…まさか本当に…?)」


私の声が聞こえたのか、不思議そうに周りを見渡す青年はフェリシアーノさん本人で。静かに涙を流すその瞳はなにも映してなどいなかった。

その時わかったことは、これは夢でもなんでもないってこと。彼の過去を見ているのだと気付いた。

そしてもう一つ、彼がイタリアとして存在しているという事実だけだった。

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