マボロキに一目惚れ

仮免講習にイケメンがいたとほくほく顔のケミィに、あんたはそんなこと言ってる場合じゃないけど一体どんくらいのイケメンだったのよと聞いてみると個性で具現化して見せてくれた。いつもの少女漫画テイストでありながら見紛いようのないイケメンに、私は息を飲む。

「えっめっちゃかっこいいじゃん…私も次の講習着いて行きたい」
「ちゃけば連絡先もゲットしてたりして〜」
「ねえ!合コンセッティングして!!」
「合コンしてみたいけどーとりま勉強会ってことでよろぴ」

ケミィに早速連絡をとってもらって、その次の講習のあとに勉強会という名の合コンが開かれることになった。ケミィと私と夜嵐と幻の彼という不思議なメンバーだったが、やっと会えた実物の彼はケミィの幻の何倍もかっこよかった。

「一目惚れしました!付き合ってください!!」
「マ?速攻すぎウケる」
「まだ轟自己紹介もしてないぞ!」

初対面の一言目がそんなものでも、轟くんは動じずにこう言った。

「でもそっちの学校、異性交遊禁止なんだろ?」
「たしかし。バレたらヤバいよー」
「…じゃあ、卒業するまで待っててくれる?」
「おお、よくわかんねえけど」
「俺も轟の親友になりたいっス!!」

よくわかんなくても了承してくれるのかと思いつつ、私は夜嵐とバチバチと火花を散らす。ケミィは本気ではないようだったので安心していたのに、まさかこんなライバルがいるとは。絶対夜嵐より先に轟くんと仲良くなってやるんだから!

弔くんとデート

弔くんが一人で大型ショッピングモールに行ってきたらしい。手ぶらで帰ってきて何も買い物をしてきたわけではないようなのに出掛けとはうって変わってすっかり機嫌が直っている弔くんに、私はぶちぶちと文句を言う。

「ずるい、ずるい、私も行きたかったっていうか弔くんとデートしたかった」
「わかったわかった、気が向いたら今度一緒に行ってやるって」

いつもならうるさいとあしらわれて終わるのに、相当機嫌が良かったのかそんな返事が返ってきた。その「今度」は絶対社交辞令で済まさないからねと意気込んでいると、後日本当に弔くんからお誘いが。引きこもりのお化けみたいな弔くんとお日様の下を歩くなんてそれだけでなんだか感動だ。

「嬉しいなあ幸せだなあ、弔くん大好き!」
「それ全部言わないと気ぃすまないのかよ」
「だって楽しいんだもん!」

私の個性は感情を読み取ったりシンクロさせて操ったりすることができるというものなのだけれど、自分においては意識的にコントロールしようとしなければ考えていることがすぐ口から飛び出してしまうので弔くんからはいつもうるさがられている。駄々もれの感情をいったん落ち着けようと一呼吸置いて、ゆったりしたペースで歩く弔くんに聞いた。

「弔くん、何かほしいものとか見たいものあるの?」
「行きたいって言い出したのそっちだろ。おまえこそ何もないのかよ」
「あるよ!あります!えっと……弔くんに似合いそうな服見たいし、あとスニーカーのサイズがあったら同じのほしいし、ちょっとお茶するだけでも」

とにかく弔くんと過ごせるだけで嬉しいよ、そう伝える。普段顔面に装備している手の平はさすがに外されてはいるものの、フードを目深に被っている弔くんの表情はよく見えず、しかし話は聞いてくれていたようで「あー靴ならあっちの店」と方向転換した。
それに着いていきながら、向かいから歩いてくるカップルが仲睦まじく手を繋いでいるのをつい視線で追ってしまった。こんなふうに二人で外を出歩くことがなかったから今までは考えなかったけど、私は弔くんと普通に手を繋ぐこともできないんだなあと思う。そのとき、ふと小指に何かが絡まってきた。視線を落とすとそれは弔くんの細長い指で。

「デートしたいって言ってたもんな」
「う……うん!」

繋いだ小指から伝わってくる弔くんの温かくて優しい気持ちをかみしめて、私は爆発しそうなくらい嬉しい気持ちをこらえた。

上鳴とバスト測定

怒らないで聞いてくれ。そう前置きされたら誰だって身構えるに決まってるじゃんと思いながらうろんげに隣を見やると、座敷席で上鳴が土下座していた。

「一生のお願いなんだけど、胸のサイズ測らせてくんね?アンダーだけでいいから!!」
「え、イヤだ」

即答で断ると「待てまてまてちゃんとワケがあるんだって聞いてくれよぉ」と情けない声で食い下がってくる。飲みに誘われて、珍しくお店を予約してくれたと思ったら奥の半個室だったのも上鳴にしては気が利いてるじゃんなんてちょっと気分が良かったのに。とりあえずワケとやらを聞いてやろうと尊大に了承してやれば、上鳴はそれだけでははあと拝んできた。

「実は今度イベントでファンの胸のサイズを測定するっていうのをやることになって、えー、練習をさせてもらいたいんですね」
「何それめっちゃウケんね。本当にファン来るの?」
「それがもう結構応募も来てんだよ!だからちゃんとかっこよく出来るようにしたいんだわ」

プロ意識は結構だけど、動機が不純すぎる。ていうか彼女に頼めばいいのに。あ、今いないんだっけ。こんなこと他に頼める人もいないんだろうけど、一生のお願いをこれで使うなんてやっぱり上鳴はバカだなと思いながら、まあ、アンダーだけなら別にいいかなという気になった。

「じゃあいいよ。今日奢ってね」
「マジかよ!女神様!!もちろん奢りますトモー!!」

カーディガンを脱いで髪をかきあげて、用意周到に持参していたらしいメジャーを持ったまま凝視してくる上鳴にほらどうぞと促した。

「はい、ここでメジャー回して。胸のすぐ下のところ」
「えっとー、膨らみ始めのとこ?その下?」
「下です」
「ハイ。やっぱそうなんだな…」
「残念でした。よっぽど大きい人じゃなきゃ触れないんじゃない」
「だよな〜」
「でもまあ、ファンはドキドキするんじゃない。近いし…」

言いかけたところで、背中にメジャーを回そうと腕を回してきた上鳴と至近で目が合った。抱きつくみたいな体制で、少し顔を赤くした上鳴が上目遣いに見つめてくる。

「……今、ドキドキしてる?」

わざと声を低くして聞いてくるのがいやなところだ。

「しないよ、今更」
「なんだよ!えー、なあ、全然これっぽっちも?」
「はいはいおしまい。贅沢ローストビーフ頼んじゃおっと」

上鳴から身体を離してメニューに手を伸ばす。友達でいるのに慣れきってしまって、ドキドキするとか焼きもちを焼くとか、もう全部今更だよ。

心操くんとクラスメイト

夏休みが終わって久しぶりに顔を合わせたクラスメイトは、日焼けした人や髪の色を変えた人など様々だった。しかし一番変わったのは心操くんがマッチョになっていたことだ。半袖から伸びる腕や服の下の身体にはがっしりした筋肉がついていて、ヒーロー科編入も本当にあったりしてね、なんてみんな盛り上がっていた。

「あのっ、ヒーロー科、行っちゃうの……?」

全校朝礼が終わって教室に戻る途中、構内に入ってだんだん列がバラけてくる中で心操くんに追い付いて声をかけた。肩越しに振り返った心操くんがこちらを見下ろして、隈が落ち込む目はちょっと怖いけれど本人に他意がないことはわかっている。

「まだ決まってないよ。でも、行きたいと思ってる」
「そっか…体育祭でもすごかったもんね」

体育祭で普通科から唯一二回戦に進出した心操くんは一時有名人になって、本当はクラスが一緒になったときから気になっていたなんて言えなくなってしまった。本気でヒーローを目指している彼を応援したい気持ちはもちろんあるが、もう手の届かない遠いところへ行ってしまうような寂しい気持ちもあって、でもそれは私の勝手だ。行かないでなんて口が裂けても言えないし、好きだなんて告白も、夢に向かって一心不乱に頑張っている今の心操くんにはきっと余計なものだろう。

「……君は?夏休みどう過ごしてたの」
「え、あ、私はフツーに、宿題やって友達と遊んだり、家族旅行したり」
「そっか」
「心操くんは、すごく身体鍛えたんだね」
「うん、ちょっとね」
「ちょっとじゃないよ、すごい変わったよ」

周りの足取りに合わせて歩いていると、あっという間に教室が見えてきた。ふわふわした会話の着地点なんてなくて、もしもこれが心操くんと話す最後になったらどうしようと思っていたそのとき心操くんがちらりとこちらを振り返った。私の顔を見て、微苦笑しながら「あのさ」と言葉を繋ぐ。

「……そんな顔されてもなあ」
「え!!ごめん、えっと……」
「別に、いなくなるんじゃないから」

私が考えていたことを汲み取ったみたいにさらりと言い加えて、心操くんは先に教室に入っていった。

出久とバスト測定

「ちょっと相談があるんだけど」

神妙な面持ちで出久くんに話しかけられ、夕食後ぼけーっとテレビを見ていたところの私は居ずまいを正した。リモコンを引き寄せてテレビの音量を下げ、何やら言い出しづらそうな出久くんが話してくれるのを待つ。

「今度ファンとの交流イベントをやることになったんだけど、ファンのバストを測定するっていう企画を推されてて」
「は、はああああ?何それ正気で?」
「それが本気らしいんだよ……一応下着の広告目的でもあるらしくて、今日真面目なプレゼンを受けてきてね…」

だからと言って真面目に悩まなくても。そう一蹴してしまいたかったが、ヒーローの仕事のひとつとして真摯に向き合おうとする、それは出久くんの好きなところでもある。しかしそれにしてもだ。完全に引き気味の私を見て、出久くんは「やっぱり、仕事のイベントとは言え恋人がそんなことしたら君がいやだよね」と苦笑した。

「……うん、ごめん。ちょっと、だいぶいやだ。ていうか、下着の広告なら普通に女の子がやればいいじゃんね!どうしても断れないなら代わりに私のバストをお客さんに測ってもらうのはどうかって聞いて!!」
「いやそれなら僕がやるよ!!」
「いやいや私が!!!」

その後、出久くんは丁重にお断りした。企画は代わりにチャージズマに持ち込まれて秒で了承されたらしい。

前へ | 次へ