こころまい
ねえ。
「なんだよ」
なんで君はそんなに優しいのさ。
「……」
なにか意図があって、こんな行動に出たんだろ?そんくらいは僕にもわかるよ。
「……あー……」
酒が入っていないお前は静かでいいね。
「うるせえな。……お前自分で言ってただろうが」
何をさ。
「優しくする理由なんざいらねえって」
……大方僕の気が紛れたら、自らが罪人にでもなって先生の元へ帰すつもりなんだろ。
「……俺ァそんないい人間じゃねーぜ」
嘘言え。眉がに゛ってしてる。
「その気持ち悪い効果音やめろ」
に゛っ。
「うるせえ」
優しいねぇお前さんは。一等優しい。優しくて強いよ。
「へーへーそうかい」
でもそんなことしなくたってもういいんだよ。
「……それはどういう」
…………えへ。
「お前……」

駆け落ち録
死のうと思っていた。
「おう」
思っていたのだけれどねぇ。
「……おう」
なんでだろうねぇ。もう少し生きていてもいいかなぁと、思えてしまったのだよねぇ。
「…………へっ、そうかよ」
誰のせいだろうねぇ。
「さあな。……誰のせいだか」
生かすのが君、かぁ。太宰も上手いこと言うもんだ。
「モモノハナ野郎がどうしたよ」
……いんや、なんでもねえさ。



生きることから目を背けず、ひたむきに生きる姿に惚れてしまったのだろうな。
「あぁ?」
なんでもねーよ。


(眩しいったら。でもその光が、心地いい)

駆け落ち録
 朔、また釦が外れているよ。聞きたくもないのに聞こえてくる声に、深々と溜め息を吐きそうになった。苦し紛れに吹かす煙草の味なんて、最早感じられない。
(……一体いつから)
 僕の釦はもう、とめてくれないのかい? そう気軽に問えたら、どんなに、いいことだろうか。生憎、僕には駄々をこねる権利も、冗談を突く口も持ち合わせてはいない。
(ずるい、なあ)
 ずるい、ずるい、狡い。ずるい男。小賢しい、男。
 ちらり、と萩原くんの目が僕を見た。
(そんな顔もするんだね)
 あまり悠々としていられないかもしれない。

日常
朔「司書さんは役目を終えたらどうするの」
「以前の職場に戻るだけだよ」
朔「自分たちはどうなるのかな」
「消えてしまうだろうね」
朔「……人間になる方法があるって、聞いたよ」
「……」
朔「ねえ司書さん、……穂吉、どうか自分を」
「人間になった君に敬慕することは出来ない」
朔「……」
「僕は人が嫌いだ。こうして曲がりなりにも対等に対話できているのは、貴方達が不完全な人の肉を纏った生命体だからだ」
朔「……(ぎゅっ)」
「なんだよ、怒るのは筋違」
朔「なら、ならなくていい」
「い……」
朔「人間じゃなくていい」

「……あのさあ」
朔「(ぎゅぅ)」
「痛い」
朔「自分が本当の意味で人間に成ってしまったら、孤独に逆戻りしてしまう。そうだと言うのなら、自分は人間じゃなくていいよ」
「……」
朔「ずっとこのままでいい」
「……(僕は、なんて言葉をかけたらいいんだろうか)」

病的
「おいてかないでね」
「大丈夫、ここにいるよ」
「ひとりにしないで」
「ひとりになんてさせないよ」
「孤独は嫌」
「孤独なんてやっつけてあげる」
「胸が痛いよ」
「抱きしめてあげる。少しはましになるから」
「誰もいない」
「僕がいるよ。大丈夫、そばにいてあげるから」
「……本当に?」
「ほんとだよ」
「自分のそばにいてくれるの?」
「うん。朔のそばにいるよ。孤独になんてさせないよ。ひとりぼっちになんて、させない」
「ずっとだよ。約束して」
「……わかった、約束」
「ずっとだからね」
「うん。ずっとだよ」



──その言葉、忘れないでね

病的



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