ウェネーフィカの


name change

Chapter01

「はじめまして、私はこの森の魔女」
庭に行き倒れていた男を拾ってみると、目を覚ますなり食べ物を要求された。とりあえず昼間に焼いたパンを与えたら、凄い勢いで食べ尽くし、一息つくなり今度はやけに礼儀正しく挨拶をされたので、私も名乗り返してみた。
男の名前はエースというらしい。
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Chapter02

高く伸びた広葉樹の葉の隙間から青空が覗き、紗のかかった太陽の光が降り注ぐ。いつも薄暗く鬱蒼としたこの森で、一番太陽の光を浴びることが出来るのは、おそらくこの畑だ。青々と茂らせ始めた葉に、セージやタイムなどのハーブを濃く煮出したものをジョウロから注げば、琥珀色の滴が太陽の光を受けてきらきらと輝いた。
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Chapter03

すべての島を見終わったと、エースは言った。
その視線は自らが灯した暖炉の炎を見つめるだけで、私の方は見てはいない。私も同じようにその炎を見つめながら「そう」だとか、「へえ」だとかを口にしたつもりだったけれど、そのどれもがきちんと言葉にならず、ただ吐息のような声が漏れ出ただけだった。
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Chapter04

窓から差し込んだ月明かりが、室内に白い柱のような光を零している。鈍い倦怠感とひりつく喉の痛みを感じながら、私を抱きしめるエースの腕の中で身動ぎをする。
「エース、あつい」
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Chapter05

月のない夜には魔女の力が弱まるのだと、そんな噂が村人の間でまことしやかに囁かれるようになった。そして、予想していた通り、若き首長と彼に率いられた兵たちがこの家へとやってきたのは次の新月の晩だった。
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silent film