「おい匡近。これはどう言う事だァ?」
「どうしたの実弥?ずいぶん怖い顔してるよ?」
「どうしたのじゃねェだろ!!なんだその鬼は」
「鬼ぃ?何か見えてるの大丈夫?疲れてるんじゃ無い?」
無理と分かっていながらとぼけようとする兄弟子に実弥の顔はいつもの倍増しで引き攣っていく。日輪刀を抜きシィィィィという風の呼吸独特の呼吸音がし始めたところで不死川実弥の兄弟子、粂野匡近が両手を大きく振りながら実弥を制止する。
「待って!実弥!ちゃんと説明するから!
 刀!まずその刀しまって!!」
「説明も何もいるかァ!鬼は斬るに決まってんだろォ!!」

目の前で始まる殴り合いに鬼の子はどうするべきかわからぬまま部屋の隅で膝を抱えその結末を眺めていた。


ーーーーーー

「はぁぁ??!!!鬼が人を守ってたァァアア??」
「だからそうだって言ってるじゃないか」

匡近は実弥に自分が見たことを包み隠さず話して聞かせた。そもそも心やましい事など何一つない為、包み隠す事など何も無かったのだが。



『鬼の出現が確認されている。しかし、被害報告が上がっていない為、現地に赴き真実の確認、そして鬼を発見した際はその存在を見極めよ』
最初に指令が届いた時匡近は腕を組み首を傾けた。鬼を斬れではなく見極めよと言うのだ。
さっぱり意味がわからない。

しかし鴉に導かれた地で理解した
鬼と鬼が戦っている。しかも、一方は人を背に庇い血を流し、一方は不敵な笑みを浮かべていた。

ーー参ノ型 晴嵐風樹

匡近は躊躇う事なく刀を振るう。鬼の頸が一つ落ちると目の前には気絶した人と血を流し肩で息をする鬼の姿だけが残る。

「……あの、大丈夫?」
鬼に対してかける言葉では無いのかもしれない。それでも匡近の口から溢れたのはそんな言葉だった。
鬼はキョトンと目を丸くすると、一度気絶した人に目を向けてすぐにその場から飛び去る
「あ!ちょっと待って!!」
しかし鬼は足を止めない。すぐに鬼の子の方を追いかけたいところではあったが、倒れている人を放ってはおけず匡近は追跡を断念した。


ーーーーーー

「ききさま?」
「へぇ。あっしら商人は時には夜でも旅を続けなきゃならねぇんすわ。ほかではそんな無茶な依頼はお断りなんすけど、ココ界隈では夜はきき様が野盗や獣から守ってくれるんでさぁ」

翌朝、昨日気絶していた商人、そして街の人から話を聞く事ができたが、誰もが皆口を揃えて商人の守り神だとか、この土地神様だとか、きき様という言葉が毎回では無いがそういう事ばかりを口にした。

「兄ちゃん!あっしはもう発たなきゃならねぇっす。お礼参りすんで時間はねぇんだ」
「……お礼参り?」
「へぇ。助けて貰えばお礼をするのが世の常でさぁ?」


ーーーーーー

古ぼけた社(やしろ)には不釣り合いにお礼の品らしい物が供えられていた。
野菜や反物、それに普通は供物などにしない肉や魚と言った物まである。生モノを躊躇いもなく置いていく側にも驚くのだが、その社には身寄りの無い子どもたちが身を寄せていた。

そして供え物を仕分けし、籠へ背負うと「行ってきます」とどこかへと運んでいく。

供え物を管理する子どもがいる為、商人はどんな物でも感謝に見合う物を置いていく。
ここへ案内してくれた商人はお礼参りが済むと足早に目的地へと旅立って行った。

「どうなっているんだ?」

匡近はその理解の追いつかない状況に腕を組んで首をかしげた。


ーーーーーー

「成る程ね。それで君たちはお供え物を」
人懐っこい笑顔で子どもたちに話しかけると何の苦労もなく子どもたちは話を聞かせてくれた。

「そう!食べきれない物は、おそそわけ?、、おすしわけ?、、えーと、おすそわけするの!」
そっかー偉いねと笑うと、子どもたちはへへへと照れくさそうに笑った。



身寄りのない者同士が一緒に生活をする為に、子供ながら役割分担的なものはしっかりしているようだ。少し休むと多くの子供たちがそれぞれの持ち場に戻り、匡近の近くにはお供え物の仕分けを続ける少女一人が残った。
「ところで、きき様の事教えてくれる?」
「きき様はね、人に良いことして、お礼を貰っているんだよ。」

ーーでも、あの時見たのは確実に鬼。
  鬼姫と書いて、きき、、って事か?

きき様とやらは、口減らしで捨てられ子どもや、親を亡くした子どもに社と言う居場所を与え、里親を探してくれる人なのだそうだ。
お供え物の扱いも、必要以上は何処に持っていくなども彼女が全て指示をして居るのだと言う。

ーー悪い鬼ではない、、のか?
  まだ情報が足りない。


ーーーーーー

その夜匡近は、きき様と呼ばれる鬼の少女と出会った最初の場所へと足を運ぶ。

「そう簡単に会えるわけないよねぇ」
商人とすれ違う事はあったが、目的の少女は見る影もない。しかし諦めきれない匡近はあちこち歩きまわっていた。

この調査はどれだけの期間かかる事になるのだろうか。任務が大切なのは分かっているが、匡近には心配事があった。周りの人を傷つけさせない為に自らを傷つけ続ける弟弟子の存在。
ちゃんとご飯を食べているだろうか?怪我を負ったとしたら蝶屋敷で治療は受けているだろうか?、、喧嘩はしていないだろうか、、。
考え始めると心配はどんどん大きくなるばかり。いっそ鎹鴉を飛ばして安否確認をさせようかとすら思ってしまう。



匡近オニダ!!ハシレ!!


弟弟子が心配でうずうずし始めた頃、相棒の鎹鴉、百日(はくひ)の声に匡近は走り出した。




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