「思った以上にキツイ任務なんじゃねェの」
本を傷つけてはいけない。
鬼の頸は落とさなければいけない。
斬るものと斬ってはいけないものが近過ぎる。

「何にしても、まずは鬼を見つけないと」

外観と中の構造が伴っていない。
鬼は何処にいる?子どもがウロウロしていない事はある意味幸いなのかもしれないが。
刻々と子供たちの命が脅かされているかもしれない。焦る気持ちがじわじわと強くなっていく。匡近と実弥はそれぞれ別の道を辿って鬼の本体を探す事にした。


ーーーーーー

行けども行けども鬼の気配はなく本ばかり。
子供の姿すら見つける事はできていなかった。
「やっぱりあの鬼が化けの皮被ってたんじゃねェだろうなァ」
実弥の頭に浮かぶのは匡近を懐柔した赤目の鬼。

ーー気に入らない。

舌打ちの音が広い空間に響いた。


一方匡近は、抜き身の太刀を鬼へと向けていた。
『やっと別行動始めたから出てこれたよ。
 こんばんは。鬼狩りさん。』
話してみたかったけど、戦うのは得意じゃないんだよねと眼鏡をクイと上にあげると、手にした本を閉じながらニコリと笑う。

「子供たちを解放しろ。
 あの子たちには生きる権利がある」

『何が権利だ。
 可哀想だろう?現実世界にあの子達に救いなど無いじゃないか?親が死んだり、親に捨てられたりしてさ。これ以上何に苦しんで生きていかなければいけない?
 本の主人公になって思うまま生きて、死んでいく。十分素敵な人生じゃないか。どれも素敵な物語じゃないか。僕がそれを最後まで見届ける。子供たちが自らめでたしと終止符を打たなければ、僕は子どもを食べることも叶わない。子供たちはみんな満足して死んでいくんだよ?素晴らしい事だろう?』

本の中なら何にだってなれる。
何だって手に入る。
周りのみんなは優しく、そして大切にしてくれる。
殴られることもなければ、飢えに苦しむこともない。
そして終わりは自分で決められるんだ。
めでたし、めでたしにすればいい。

「素晴らしくなんてない。そんなの全て偽物だ。確かに理不尽で、この世の中、辛いことばかりかもしれない。でも、生きる事は素晴らしい事なんだ。
 苦労して掴み取る事や、仲間と出会う事が、どれだけ幸せな事なのか知らないなんて勿体ない。
 無限に広がっていく可能性の邪魔をするな!
 お前に未来を奪う権利なんて何処にもない!」

『そういう綺麗事はね。苦しい思いをして来ていないから言える事だよ。直視する事も躊躇う様な辛い経験をしていないからそんな事が言えるんだ』

「お前に何がわかる」
匡近はギリギリと奥歯を噛む。辛い経験をしていなければ鬼殺隊になど入る事はなかった。
親を泣かせる事はなかった。
戦う力を手に入れても守り切れなかった命だってあった。何人も仲間を見送ってきた。

悲しい事だって
辛い事だって
取れない血の様に。
動けば動くほど段々きつくなっていく真綿の様に。
ずっとまとわりついている。

だから
守りたいと思うんだ。
戦うと決めたんだ。

弟が今度は笑顔で過ごせるそんな世にするために。

匡近は目の前の鬼へと走り込む。
ーー参ノ型 晴嵐風樹

『怒りに身を委ねた者など何も怖くない

 世の中の辛さを知っていると言うなら君も物語に生きると良い』

いつのまにか目の前にいたはずの鬼は匡近の後ろにいた。眼鏡の奥に「下弦陸」の文字。
持っていた本のページを開き、真っ白なページを匡近に押し当てる。

『さぁ、行っておいで』

鬼の声と共に匡近の体が本へと吸い込まれていく。鬼は『コレはいらないよ』とニコリ微笑むと、吸い込まれゆく匡近の手から日輪刀を叩き落とし、床に日輪刀が転がる。

匡近の姿が全て消えるとその本は力を無くした様にバサリと日輪刀の隣へと落下した。

鬼は落下した本に一目向けたものの、一瞬にして興味を失い『あの子の続きはどうなったかなぁー』とぴょこぴょこ跳ねるように本棚へ戻っていった。


その光景を緋色の目が見つめていた。


ーーーーーー


ーー匡近、、。

  優しい彼が殺されてしまう。
  嫌だ。嫌だ。嫌だ。

腕に巻かれたままの包帯。
傷などとっくに治っている。
それでも、匡近の優しさが嬉しくて、心がぽっとなってそのままになっていた。
手を乗せるとあの笑顔が浮かんでくる。

《事が済んだら戻ってくるから、
 その時は君の名前教えてね?》

胸の前で拳を握りしめると、小さく呼吸を繰り返す。右親指の腹を噛み切り左掌に模様を描き、匡近の刀と本に狙いを定め床を蹴った。




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