とても短い話


1000文字に満たない話、ネタなどを置いています。
名前変換はありません。

僕の世界と君の世界は、全くの別物なんだよ。*郭嘉


一目見た時、体の中心が激しく熱を持った。あれほどの体験は後にも先にもなく、日を重ねるにつれて残熱は一向に引かず、まるで火傷したみたいだった。思い出すだけでぶり返す激情を恋と呼ぶなら、まさしく自分は彼に恋していた。父の顔と伝手を辿り、再会に漕ぎ着けた際。

「あなたは可愛らしい女性だね。夢に抱かれているような、ささやかな無垢を秘めた方だ」

綻ぶような笑みで、優しい眼差しで、彼は言外に線を引いてみせた。どうすれば同じ目線に立てるのかを考えて考えて、出した答えが彼の政敵に与することだった。ちょうど哥哥と父が今後のことで揉めていたし、哥哥が手を組もうとしていた相手だったので同盟を持ちかけるに違和感はなく、立て板に水を流すように話は進み、婚姻を終える。大丈夫、体を渡してもこの心は彼だけのためにある。そう言い聞かせてついにこの日が来た。

「私たちの出会いを覚えておいででしょうか、郭嘉様。私は片時も忘れたことはございません。あなたのお声、お顔、立ち居振る舞い、僅かな仕草さえも珠玉のように抱え込んでおりました。あなたは唯一無二の方。あなたに見初められるがため、そしてその胸襟に秘めたる想いを理解せんがため、私は行動を起こしました。ねえ、郭嘉様。今ならあの時と違うお言葉をくださいますか?」

雪のように白いかんばせは、初めて苦しげに歪められた。



アンケのお返しです。

それは寒い夜だった。*徐庶


吐き出す息は白く、動かす手脚は冷たさに痛み、闇を映す目は乾燥して瞬きが多くなる。背中を追ってくる数々の足音。山草を踏み、鬱蒼と茂る道を勝手知ったる足取りで迫ってくる。闇を突き抜ける都度、心臓が嫌に跳ねて呼吸ができなくなる。それでも立ち止まれない。限界などとうの前に迎えた体でもそれは理解しているようで、弱音を吐いて泣きじゃくる理性ごと引きずって駆ける。

「ぁ、あっ!?」

刹那のこと。跗を何か硬い物が遮り、それに掬われて体が前のめりに倒れる。気付かぬ間に沼地に入ったらしく、泥の飛沫が頬を掠め、あわや顔ごと落ちるところだったのを寸前で突き出した両手のひらには泥がこれでもかと覆っている。逃げないと。でないと奴らに。唇を噛み締めて立ち上がろうとした時のこと。突如、背後からどよめきが広がった。何事かと振り返るも当然そこは夜の闇に塗り潰された光景しかなく、山ということを理解している脳が勝手にそこに立っているであろう木々を脳裏に浮かべる。月はあいにくと隠されていて、それが夜気の辛さを倍増させる。ついぞ理解できずにどよめきは鳴り止み、代わりに安定した一つの律動が響いた。それは確かにこちらに近づいて来ていて、心臓が肉食獣を前にした小動物のように逐一跳ねる。

「―――大丈夫かい?」

茂みを掻き分けて現れる顔。相手が掲げる松明の明かりにぼうっと浮かぶ顔貌に、心当たりはなかった。けれど見知らぬ相手だという状況にも関わらず、示した気遣いと追っ手の解放を理解して涙がついに決壊してしまった。



「140文字で書くお題ったー」様より引用

関白亭主*司馬懿


「おい」

「はい?」

「見てわからぬか」

「湯呑みを差し出していることだけは」

「なら疾くせよ」

「何をでしょう?」

「なっ」

「あいにくと私は旦那様のような怜悧さは持ち合わせていない愚妻でありますゆえ、旦那様の意図が測りかねておりますの」

「涼しい顔でよく言うわ」

「生まれつきですわ」

「……茶を持ってこい」

「そうと最初から言えばいいですのに。今下女を呼びますゆえ少々お待ちを―――」

「違う」

「旦那様?」

「…………お前の茶が要ると言っておるのだ馬鹿め」

「まあ」



「140文字で書くお題ったー」様より引用

ありふれた日常の中の幸せ*陸遜


数多の悪意と邪な視線が無数の針となって突き刺さる。見えない針には毒が仕込まれていたようで、心臓が痛み出す。覚悟したはずなのに、何故こうも儘ならないのか。

「―――私がおりますよ、陸遜様」

ああ、そうか。頬を滑る優しい指先が痛みを自覚させるのか。徐々に凪いでいく痛みに安心感を覚えつつも、一抹の恐怖が胸の奥で疼いた。



「140文字で書くお題ったー」様より引用

放り投げられた贄*荀攸


モブ視点


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ただの一つもありはしないのだ


相手:オリ張角


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笑わないと出られない部屋


相手:曹丕

何も考えずお読みください


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獣の懐*孫堅


夢主の友人視点

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怒られる紫鸞


彼の片付けの下手くそさは知っていたつもりだ。だからこそ出立する前に必要なものはあらかじめ一箇所にまとめておき、入用の際はそこから出すよう言いつけた。彼も頷いて理解を示してくれた。けれどほんとうの意味でわかっていなかったのだ。

「紫鸞。紫鸞」

二度、彼の名を呼ぶ。大仰しい名前を冠する彼の肩がぴくりと跳ねる。腹の底から出た低い声は明らかいつもの私ではなく、それに臆しているのか気まずいのか。黒い蓬髪の間から覗く明け方の空。下げられた眉尻は憐れな仔犬を想起させた。しかし。

「そんな顔しても駄目だから」

すぱっと切り捨て、眼前の光景を改めて見遣る。一時の住まいとして借りた狭い房を埋め尽くさんとばかりに散らばる私物。しまっていたはずの物も使い終わった物も、これから使うだろう物まで。水を張って布を浸しているあの浅い皿、あれ顔を洗う用じゃなくて花を活けるための物なんですけど。

「そう、なのか?」

「蓮の絵が描かれてあったでしょ」

「あった気もする」

駄目だこいつ。嘘でしょ、こんなにも抜けてて大丈夫なの?いや大丈夫じゃないのは房の有様を見れば一目瞭然だ。深く息をついてかぶりを振ると彼が申し訳なさそうに目を瞬かせた。転戦の都度、敵を圧倒するその武勇を幾人もの英傑に讃えられているとは思えない態度に、失笑してしまう。一度剣を抜けば獲物を定めた狩人のごとくというのに、今の彼はさながら怒られるのを怖がる子供だ。

「片付け手伝ってよね」

呆れ混じりに小突けば、彼は肩の力を緩めて頷いた。浮かべた微笑に何だか胸のざわつきを覚え、そっと目を逸らす。

甘やかしたい荀ケ


「ええと……、どういう状況?」

「起きられましたか」

「うん、たった今ね」

「喜ばしいような、少し残念というような―――いえ、何でもありません」

「ばっちり聞こえてるからね。今更取り繕っても駄目だよ。いや、それより説明してほしいんですけどこの体勢」

「柱にもたれて眠っていらっしゃったので、僭越ながら私が枕代わりを務めさせていただきました。男の太腿では硬いことこの上なく寝心地は悪いでしょうが、柱よりかは幾分寝やすいだろうと思いまして」

「荀ケ殿がやるようなことでは―――失礼。文若殿」

「……まだ字名は慣れませんか」

「すみません」

「いえ、良いのです。呼ぶ機会はこれからたくさんありますから、そのうち慣れるでしょう」

「それでもこの体勢だけはいつでも慣れませんよ―――って文若殿?何故急に頭を撫でるんで?」

「常に冷静沈着で泰然としているあなたの困った様子は、いけないと知りつつも少し、嬉しく思ってしまいます。伴侶たる私にだけ見せてくれるのではないか、と浅ましい期待を抱いて」

「文若殿……」

「それだけではありません。以前のあなたはこうして白天に寝顔を晒して余人に触らせることはなかった。その変化が私は望外に嬉しいのですよ」

「今の自分に触れるのは文若殿だけですから」

「そうでしたね」

「(戦傷で傭兵として使えなくなった自分を囲むなど文若殿くらいだ)」

「あの時、勇を出してあなたに想いを告げてよかった。でなければあなたはあのまま人知れず行方をくらませていたでしょう?」

「剣を持てない剣客など笑い物だからね。ただ飯食らいになるわけにもいかないし。……文若殿に身を寄せるとは思わなかったけど」

「あなたの意表を突けるとは光栄です」

「こら、喜ぶな」

「先んじて曹操殿の許しは得ていました。万一あなたの身が損なうことがあれば私の下に引き渡してほしい、と」

「手早いね、文若殿」

「…………四方を囲めど余裕は持てませんでしたよ」

「何故?」

「士官するより前は流浪していた身。武芸者として各地を流転し、一箇所に根を張らない。そんな生活に戻らせてはここへ訪れることはないだろうと思ったのです」

「否定できない……」

「だからあなたが身を隠すより前に動く必要があった。しかしどれほど動いても溝を埋めても退路を断っても、気が休まった夜はありませんでした。この月が沈めば会えなくなるのではないか、情けなくもあなたを見送る都度臆していました」

「頻繁の誘いはそんな意図があったのか……。全然気づかなかった……」

「気づかれなくてこちらは安堵する思いです。今なら言えますが、当時はあなたに失望されたくない一心でしたから」

「文若殿らしいね」

「―――あなたは」

「うん?」

「後悔……していませんか?私の下へ来たことを」

「いつ死んでも後悔ないように生きてる私が、唯一別れを惜しんだ人だからね。責任取ってもらわないと」

「それは…………。―――ええ、はい。この荀文若、命ある限りあなたの傍に居ると誓いましょう」

「(嬉しそうに笑っちゃってまあ……)」


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