歴史に刻む快勝



 開戦から三日目。
 一週間前に頼んだ密偵によって、捕らわれていた魔術師を救出できた。
 魔術師でもある密偵には、後日報奨ほうしょうを出す約束をして、あれから打ち解けた魔術師に救出したばかりの魔術師達の精神的な治療を頼んだ。
 ほとんどが子供で、予測通り人質として利用されていた。その中には敵国の総大将を護衛する魔術師の弟がいた。

 火刑の罠が発動し、森林に潜む精鋭部隊が総大将のいる敵陣に目掛けて強襲。
 その時に炎の魔術師ゼノンによって、兄の魔術師を説得してもらった。
 成果は上々。魔術師はこちらに寝返り、精鋭部隊で最も武力を誇る国軍の兵士がマグニフィカス公国の総大将を討ち取った。

 敵陣は……志願兵は全員死亡。貴族の兵士と将校はほとんどが討ち死に。残った将校や兵士は投降により捕虜となり、後日の戦後処理に利用することになる。

 今回の戦争で、アナトール王国側の死者は二桁。重傷者は三桁。
 圧倒的な成果により、アナトール王国の快勝で終わった。
 あとは賠償ばいしょう請求せいきゅうの交渉があるので、終わるまで国境を守護するシャーウッド領に滞在することになった。

「フェリス辺境伯。半年前は品種改良された農作物の苗を提供していただき、厚く御礼おんれい申し上げます。従来じゅうらいの作物より我が領地の土に馴染み、収穫量も段違いで……領民が救われました」

 シャーウッド辺境伯は、半年前に王家を通して品種改良した農作物を買ってくれた。マグニフィカス公国側の亜寒帯地域に面しているので、寒い気候でも育つ農作物を求めていたのだ。
 連作障害を視野に入れて、大麦、大豆、茄子、大根、カブ、馬鈴薯、薩摩芋を提示。一部はフェリス領で開発した温室技術で成功したけれど、シャーウッド領の土壌や気候でも育つ作物が判明した。主に山から海へ繋ぐ川といった水源に面した土地で育つ豆類や根菜。
 自家製の保存食や糖度の高い野菜の栽培で食生活が潤い、若者の移住も減ったらしい。

「私の方こそ、此度は魔術師達の滞在を許可してくださり感謝致します」

 シャーウッド領の滞在中では、魔術師達を手厚く受け入れてくれた。
 おかげで保護下にある魔術師も休むことができた様子。今はフェリス領の魔術師達が、シャーウッド領の魔工製品の工房で保護中の魔術師に新技術を教えている。

 こちらの勝手を許してくれて感謝の言葉をべると、シャーウッド辺境伯は笑った。気持ちの良い笑い声に、少し驚く。

「ハハハ! いや、失礼。むしろ感謝しております。魔工製品を高める技術を惜しみなくさずけてくださったのだ。卿が魔術師を手厚く保護する理由が理解できましたぞ」
「そう言っていただけてありがたい。魔術師は私達のような徒人ただびとに比べて希少ですし、その能力の価値は計り知れない。まさに世界が生み出した奇跡なのです。いずれ世界の宝と称されても過言ではなくなりましょう」

 本当に稀有な人材だけど、魔術師に馴染みのない人には大袈裟に聞こえるだろう。
 しかし、シャーウッド辺境伯は顎髭あごひげに触りながら深く頷く。

此度こたびの戦争でも活躍し、死者は二桁に抑えられたとか。これは歴史的快挙です」
「彼等には無理をさせましたが、本当によく頑張ってくれました。本来、彼等は大昔に使われていた魔術――魔法を探究する神秘学者ですから。神代では魔法として普通に使われていた力ですが、古代から現代にうつろい劣化しました。それが魔術の正体です。その力を解明すれば、魔工技術もさらなる高みへ進化するでしょう」

 今のうちに魔術師がどれほどの価値を持つのか売り込む。
 すると、シャーウッド辺境伯は興味深そうに聞き入り、神妙な面持ちでうなる。

「うぅむ……つまり我々は、魔術師の価値を見誤みあやまっていたのですな。いやはや、フェリス辺境伯の慧眼けいがんには恐れ入る。是非とも彼等と友好を築きたいものです」

 建前ではなさそうだけれど、歴史的にやらかした魔術師を知っていると懸念けねんもある。ここは慎重に彼等を見極めるようだが、それでも友好を望んでくれた。
 私が最も望む未来への一歩が踏み出されたのだと、少しずつ感じた。

 それから数日後に、交渉へ向かっていたサージェント元帥が帰還した。

「フェリス卿。公国の賠償請求だが、正式に魔術師を引き取れたぞ」
「ありがとうございます、サージェント元帥」
「いや、礼を言うのはこちらだ。卿が提供ていきょうしてくれた手札のおかげでとどこおりなく終わった。賠償金もそうだが、こちら側に面接する魔晶石の鉱山を得られた。感謝する」

 捕虜にはマグニフィカス公国を治める大公の子息、王子に相当する公子がいた。実のところ彼が総大将だったのだが、敗北を悟って影武者を残して逃走したのだ。

 寝返った魔術師のおかげで公子を捕縛し、彼を交渉材料にした。他にも他国への不法侵入と人攫いに人身売買の問題の証拠も揃えて出した。
 結果、要求した賠償の全てが承認された。

「それで、卿が希望した鉱山はどうするつもりだ」
「国にゆだねます」

 あっさり即答すれば、サージェント元帥は目をしばたかせる。

 私が欲しがっていると思っていたのだろうか?
 確かに魔晶石を採掘できるのだから、欲しいのは山々だけれど……。

「フェリス領と距離がありますし、管理しきれません。そもそも、今は問題なくても将来的に資源が枯渇こかつする恐れがあります。一つでも資源の豊富な鉱脈が多ければ、将来的な保険にも繋がりますから」
「……そうか。いや、それでこそフェリス辺境伯と言うべきか」

 国の未来を見据えたものだと説明すると、サージェント元帥は顎髭を撫でつけて感心の言葉を口にする。それを微笑で受け取り、今後の予定を決める会議が始まる。
 と言っても、既に行軍に必要な物資を整えたので、出立時間などで簡単に終わった。