一派の青い証布

 リカーナは乱れた身なりで帰ってきたウィルソンとジョージに、――特にジョージの左腕に違和感を覚えた。顔色がかなり悪い。「解毒剤をくれ」とせがむウィルソンも、衣服の所々が裂け、穴が開いている。
 とりあえず戸棚にあったものを渡す。少しすれば落ち着きが戻るだろう。それから気になっていた本題を声に出した。

「ねえジョージ、あなた左腕に青布を巻いていなかったかしら?」

 ジョージはぎょっとして腕を見たが、そこに一派の青布はない。先ほどまで一応の配慮を示していたウィルソンは、見る見る形相を変える。それに対しジョージは冷や汗を浮かべていた。

「いやいや、これは……、そう! 今朝方、慌てて起きて来たもんだから、付けるのを忘れてきちまってさ……」

「ほう。じゃあなんだ、俺が朝見たお前は、顔の良く似た別人だったってことか?」

「そうそう、あ〜いや……あはははは」

 乾いた笑いのジョージに、ウィルソンはますます人相を悪くする。リカーナは事の成り行きを何となく察した。服の汚れ具合から、大方異形と戦った時に、ジョージが落としたのだろう。せっかく顔色の良くなった彼の胸倉を、ウィルソンは掴みかかった。が、リカーナは制止する。

「落ち着きなさいよ。誰かが拾ったとしても、私達に向かってくるような奴じゃない限り、問題はないわ」

 ウィルソンはジョージを睨み付けたまま、手を引いた。

「だといいがな。最近『異形狩り』と適当に言って、騒ぎ立てている馬鹿が多い。俺達は無差別主義者じゃないんだぞ」

 リカーナは沈黙する。一派の人員が増えるのは構わないが、「異形狩りの一派」の名をかたり市民に暴力を振るう連中がいるのも事実。それは甚だ遺憾だ。ウィルソンが異形狩りの一派を続けるのは、妻子が殺された事の復讐がほとんどだが、ハンデンク教会の真実を暴く目的もある。ウィルソンは一派の名をかたられることで、教会の尻尾を掴めなくなるのを日頃心配していた。

「そんなに心配しなくても大丈夫でしょう。前だって大丈夫だったし」

 ジョージはすぐに「いや! 前っていうのは」と訂正を入れようとしたが、時すでに遅し。言葉より手の方が出やすいウィルソンは、ジョージの腹に一発決めていた。病み上がりにこれは応えそうだ。

「やっぱり、テメェ。前に『家で無くした』とか言ってたが、そういうことだったのかぁ?」

 ジョージは呻き声を上げながら、助けを求める視線をリカーナに送ったが、彼女は呆れたように首を左右に振る。当時は何度も口酸っぱく注意をしたはずだが、その効力はあまりなかったようだ。

「ウィルソンの鉄拳の方が、あなたには効きそうね」

 無情にも立ち去るリカーナ。騒ぎのせいで別室から「何事か」という表情で出てきたアレックスも、状況を見てすぐに部屋へ引き返した。
いよいよ双鉄騎士の従者へと姿を変えたウィルソンに、ジョージは逃げ惑っていた。彼に味方は誰もいなかった。

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(投稿:2018.05.08)
(加筆修正:2018.05.08)

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