メブサ前会長

 メブサは熱心にアヴァランギスタ教会に通っていた。たまに教会の資料整理を手伝うほどには、顔も知られていた。
 ある日、いつもの通り資料整理を手伝っていたメブサは、ほこりを被った書庫の中で、やけに古びた書物を見つけた。書いている字は古代文字で、到底理解できないものだった。教会はその書物を「世紀の大発見だ」と言い、解読でき次第メブサにも伝えると約束した。

 後日、渡された書物の翻訳を読んだメブサは、頭が震えるような錯覚を覚えた。「創造主」という、人が生み出す神に、心奪われた。

 それからというもの、メブサはただひたすら書物を読み漁った。教会はそんな彼を心配したが、彼が笑顔で「私も人々に救いを見せたいのです」と言えば、熱心な信仰だと感心して終わったのだった。


 夜な夜な、メブサは実験を重ねていた。
 あるいは浮浪者を、あるいは旅人を、あるいは村落を、あるいはイル・メ・トーラを。犠牲は山のように出たが、それは仕方のないことだと了解した。

――これは一種の呪いだ――

 メブサは植物がいかに崇高かを、教会で得た知識から口上手く説いた。それに感銘する人々は徐々に増え、ついに「植物研究会」を発足するにまでに至った。

 彼は歳を取った。だが「創造主」の復元は達成していない。旧市街の大きな犠牲ですら足りなかった。幸いにも弟子の一人にマルダースという非常に賢い男がいる。鼓動植物の知識にも精通している。この男なら成し遂げれるかもしれない。
 メブサ会長は体がおぼつかないながらも、植研会が行う実験を上手く隠し通していた。彼の話術は巧みだった。

 メブサは世の中に「救い」があり「神」がいると信じたまま、この世を去った。

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(投稿:2018.05.08)
(加筆修正:2018.05.08)

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