宇髄合同遊郭潜入!? 7
「夏椿はこれからお客様の前に出るって分かってて
何で着物を脱いだんだい!!
支度の時間だって必要だって
気づかん訳じゃ無いだろうに!!
化粧だって、完全にやり直しじゃないかい!!
何をしたらこんなことになるんだよ!」
「ス、、スンマセン、、、。」
京極屋の女将は絶望的な顔をして、ぐちぐちとお小言を垂れ流しながらも柚充に着物を着付けていく。
柚充の働きが店に貢献されることを知っている女将はそうは言いながらも夏椿を広間でうたわせることは曲げるつもりはない。
しかし、どうやっても、化粧を完璧に直している時間が無い、、
女将はだいぶ青い顔になっていた。
「女将さん、、あれ使っても良いですか?」
柚充が指差す先を見て、化粧が少し楽になると血の気を取り戻し、おもしろいと笑った。
ーーーーーー
夏椿が姿を見せないまま広間に琴がポロポロと音を奏で始める。
客の間は、現れない夏椿に不安を口にする者が相次ぎ、室内はザワザワとしていた。
その時、すーっと襖が開き、夏椿が姿を表した。室内のザワザワとした声の気色が変わる。それにはちゃんとした理由があった。
少し俯き加減の夏椿は狐の面を付けていた。
客の前で足を止めると狐の面をずらし、片目が隠れた状態で、歌を紡ぎ始める
遠い昔、どこかに小さな村がありました。
その村はその年、日照りが続き、作物も育たぬばかりではなく、人々の生活にもかげをさしはじめておりました。
村の長たちは村の外れにある龍神様に雨乞いをすることを決めます。しかし、龍神様に捧げる生贄を村から出したくはありません。
そして長たちは龍神様への生贄は狐を騙して捕まえることにしたのです。
人に化ける狐が住む村に、色の白く美しい狐の娘がおりました。長たちは村長と話し合い、その狐を村の働き者の青年の所へ嫁入りさせる事にしました。
しかしそれは、狐の娘を騙して捕らえる為の謀(はかりごと)でした。長たちは祝言の席で娘を捕まえるつもりだったのです。
そして迎えた祝言の日。
長たちが捕まえる為の準備を進める中、長たちの企みに気づいた青年は狐の娘にそのことを話し逃げるように促します。しかし、娘は逃げようとはしません。
「私は以前から、貴方のことを存じており、
お慕いしておりました。この身一つで貴方と、
貴方の愛する村が救われるのならば、
それだけで私は幸せ者です」
狐の娘と青年の祝言が終わると、娘は青年に微笑み別れを告げ、長たちによって龍神様のところへと連れて行かれてしまいました。
神主が雨乞いの祝詞を奏上し始めると、青く晴れ渡っているはずの空から、大粒の雨が一つ、二つと降り始めました。
村人たちが恵みの雨だと喜ぶ中、青年は一人、最後に微笑みを向けた娘の涙のようだと空を眺め続けました。
青年の頬が濡れていたのは、雨のせいだけではなかったことでしょう。
青年は空へと手を伸ばす。
「次、君と夫婦になれたなら今度はこの手
絶対に離さないから、、、」
と。
膝をつき頭を下げる夏椿。
しかし、その頭はなかなか上がらず、だんだんと傾き、畳の上に倒れ伏した。
「夏椿っ!!」
「椿ちゃん!」
女将と菊華の声が上がり、何人か夏椿を抱き起こそうと立ち上がり手を伸ばした。
「ソイツに触ると鬼を見るぞ!!!」
それは昨夜、女将の忠告も聞かずに夏椿に手を出そうとして痛い目を見た太客。
震える手で横たわる夏椿を指差す。
太客の恨み言にも似た言葉ではあったが、他の客にもその恐怖心は伝播し、夏椿に延ばされようとしていた手は、皆、さーっと引いていった。
広間は唄を聞いていた時とまた違う静寂に包まれる。
そんな中、呆れが色濃く乗った大きなため息が聞こえた。
一人の青年が立ち上がると、何の躊躇いもなく夏椿を抱き上げ女将へ視線を向ける
「ちょっ!!お前!俺の話聞いてたか!!
ソイツは、憑き物つ
「だから何だ?
憑き物が恐ろしいなら引っ込んでろ」
再び女将に視線を向けると、女将は何も言わずに夏椿を抱えた青年を他の部屋へと案内し、夏椿がさがった後、広間に流れる妙な空気。そこで菊華花魁が琴を奏でうたを紡ぎ、舞台を引き継いだ。
そうして夏椿の出番は幕を下ろすこととなった。
別室に移動した女将は複雑な面持ちをしていた。
「礼を言えばいいのか、何なのか、
旦那は夏椿の何なんだい?
知らない間柄でもないんだろう?」
布団に横たわる夏椿から、女将に目を移し実弥は「まぁ、、」と言葉を濁す。
「アタシは何でもいいけどさ、、
まぁ、
この部屋は好きに使ってもらって構わないよ
夏椿は出られそうにないしね」
ーーーーーー
夜風が頬を撫でたのだろうか。
人の気配を感じて柚充はゆっくり目を開けた。
「………!!!」
ぼんやりと浮かび上がって見えたのは、師、不死川実弥の寝顔だった。
あまりに予想外すぎて大声で叫びそうになってあわてて両手で口を塞いだ。
ーー全くどんな状況か分からない。
でも、とにかく心臓に悪すぎて耐えられず、起こさないようにと起き上がると、実弥を一人残して柚充は部屋を出た。
突然起き出した事に驚いて、実弥が思わず寝たふりをした事に柚充は気づかなかった。
廊下を進めば明かりのついた部屋が見える。
そこはここ、京極屋の女将いる部屋。
「……女将さん?」
「あー。夏椿。体は良いのかい?」
目を通していた帳簿から顔を上げて女将は、お入りと柚充を促す。
「朝にはここを立つんだろ?
アンタの荷物こっちに移動しておいたよ」
大した量は無いけどねと女将は笑う。
「そして、これはアンタの稼ぎ。」
「………は?」
「は?じゃ無いよ。アンタ入り用があったんだろ」
ーーそういう事になってたっけ。
しかし、柚充はその額に青ざめる。
「お、お、お、かみさん?
こんなに頂けません!
今日も全然働いてないし!
記憶が飛んでるくらいだし!!」
「そんな事うちだって分かってるさ。
慈善事業じゃ無いんでね。
ちゃんとその分、差っ引いて、アンタの取り分だよ」
女将は指名を断らせようとして、例の太客から"ふんだくった"分がほとんどだと柚充に説明する。まさか本当に出すとは思わなかったと続けた。
「アンタが広間に出れば、うちも稼ぎが上がる。
もしまた入り用が有ればうちに来るんだよ。
たとえ短かろうと雇ってやるさ」
「…え?」
「憑き物付きだとか面倒な説明をしなくていいだろ?
お互いに良い関係ってわけさ。その代わり、
今度は広間の仕事飛ばすなんて許さないからね」
女将は話しは終わったとばかりに再び帳簿を開き柚充の方へ視線を寄越すことは無かった。
翌朝、遊廓が動きだしたときには、夏椿という娘は京極屋に居なかった。
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