宇髄合同遊郭潜入!? 4
歌の最後の一音を弾いたのち、少し離れた位置に座る黒髪の青年に目を向けると、その視線はぴたりと合い、ずっと凝視されていたらしい事に柚充は背筋に冷たいモノを感じた。
「あの、、何処かでお会いしましたでしょうか?」
「……さぁな」
ーーさぁなって何?
でも、この人なんか変なんだよな
柚充も無遠慮に黒髪の青年をまじまじと見つめる。
・・・・・・・。
ーーもしや、、!!
柚充は立ち上がると黒髪青年の前に座り、「失礼します」とその手を取った。
そして、一気に着物の袖を捲り上げる。
「……実弥、様、、」
「、、気づくのが遅ぇ」
「だっ!だって髪色違うし、ツンツン髪もペタリだし、、
それに傷跡が無いじゃないですか。
なんで!!」
「持つべき物は忍びの同僚ってとこだな」
はぁーと気が抜けるようなため息の後に柚充の両手は無意識に実弥の頬へとたどり着いた。
「綺麗になってるけど、、
いつもの実弥の方が良い、、、」
柚充のその言葉は意図して紡いだ物では無く、自分で口にしておきながら、自身の頭でその言葉を理解するのに間があいた。
理解が追いついた途端に妙な恥ずかしさが込み上げて柚充は実弥から飛び退くように距離を取る。
しかし、せっかく空いたその距離は実弥によって詰められた。
「…おい」
「さ、、実弥様、ちょっと距離が近いなー
とか思ったり、、」
「どうして、自分の身を案じる人の気持ちを考えない」
柚充は喉の奥がキュッと詰まるような感覚がした。実弥の視線から逃げるように目を背ける。
「俺は、宇髄に客としての潜入は了承した。
宇髄も最初からそれ以上の事をさせる気はなかった。
お前もそう言われたはずだ。だがどうだ?
何故柚充はそんな格好でここに居る?」
実弥は怒っていた。
静かに。まるで地面スレスレを吹く風のように。
客を取らないつもりが本人にあっても、それは潜入だとしても遊郭で働けば先程のように"嫌"で済むことではない。
そんな目に遭って欲しくないと"女"としての潜入を許さなかったのに、心配を他所に自ら突っ込んで行ってしまった。
本来なら今すぐに手を引いてこの場から連れ出してしまいたい。
「那田蜘蛛山で、自分の足りねェ所を
痛感したんじゃねェのかよ」
でも、それでは師としては駄目。
柚充の話も聞かなくてはいけない。
鬼殺隊としての柚充の努力も働きも知っている。
大事大事と場数を踏ませる事を避けてしまえば何より柚充に成長はない。だからこそ継子である柚充がどういうつもりで命令違反をしたのか聞かなければいけなかった。
「、、ごめんなさい。、、でも、、
ここの人たちは隊に保護されなかった私かもしれない
んです。救われなくて良い人なんて居ないんです。
今回は情報収集だけだってちゃんと分かっています。
だから、絶対に怪我せずに帰りますから、
今日明日だけ見逃してください。
違う、、、
見守ってください」
「意地や利己的な感情で動いてねェな??
大切な事は見落としちゃいねェんだな」
「はい」と頷く柚充に実弥はフッと笑うと、頭を撫でようと手を伸ばす。しかし、派手に飾られた髪を見てその手は行き場をなくし膝へと戻ろうとした。
柚充はその手を捕まえると、実弥の手を自身の頬へと導く。そして、手を実弥の手に重ねた。
「少しだけ、、少しだけがんばらせてください……」
目を細め、少し頬を染めるその姿に実弥は目を奪われた。
場が場、姿が姿なだけあって、不覚にもその雰囲気に引っ張られそうになる。
「……夏椿といったか?
………琴を、引いてくれ」
ーーーーーー
実弥は京極屋を後にしたのち、宇髄と飯処で並んで遅い夕食を取っていた。柚充の所へ行った後そのままの姿のため黒髪のままである。
「悪りぃな不死川。柚充を、、、」
「らしくもねェ。アイツが選んだ道だ。
俺らはアイツを信じて見守るしかねェよ」
「不死川、お前……。随分大人になったなぁ
胡蝶に塩塗られた時とは大きく違うじゃねーか」
宇髄は実弥の肩を組み、バシバシと叩く。
「ヤメロこの筋肉馬鹿!!
宇髄テメェもアイツの成長見てきてんだろ」
宇髄の手は止まった。
「分かってはいるさ。柚充は柱(俺ら)が鍛錬した、
鬼殺隊(俺ら)の仲間だからな」
ーー不死川らしくはねぇけど、
すこしは師匠らしくなったもんだ。
宇髄は実弥の頭をくしゃくしゃに撫で回す。
「ヤメロ!!触んな!!」
「せっかく変装してやったんだから、少しくらい遊んで
くりゃ良いものを風継と同じで真面目過ぎんだろ」
「あ"あ"ぁぁ??!!」
実弥としては何を文句付けられているのか理解に苦しむ。相手にするのが面倒になって、手を振り払うと実弥は宇髄を無視して目の前の料理を口に運ぶ事に専念した。
夜も更け流石に遊郭も静寂が広がり始めた頃、柚充はというと、さほど位の高くなく、今宵仕事が入らなかった花魁たちと布団を並べて横になっている。あちこちから聞こえる寝息。花魁たちにとっては束の間の休息といった所なのだろう。
『広間の娘は?』
『あんなのただの子生意気な小娘さ』
『それよりも次はあの子だよ』
奥まった部屋では人知れずニヤリと口元を歪める影があった。
ズルズル引きずるような微かな音。
ーーこの音は誰だったかな、。
花魁たちは着物を引きずって歩くため、こんな音はしょっちゅう耳にする。
しかし、この違和感はなんなのだろう?
柚充はゆっくりと目を開けると、目の前で休んでいた花魁が小さく震えていた。
「どうかされましたか?…眠れませんのですか?」
「……なつ、、つば、き、、」
「同じですねぇ。なんだか暗闇に引き込まれそうで。
でも、大丈夫ですよ。隣に居りますから」
柚充は花魁の手を取ると、ニコッと笑って見せた。
驚いた顔をした花魁だったが、柚充につられたように頬が緩み「ありがとう」と口にした。
花魁の震えは次第に落ち着き、そのまま眠りに落ちていった。
ーーーーーー
夜が明け遊郭の中も動き出した。
割り当てられた掃除などの仕事をこなし、柚充は手が空くなり琴の稽古を始める。
「椿ちゃんはどうしてそんなに一生懸命に琴の練習
しますの?あとは今日だけの働きなのに」
未明に手を取って眠りについた花魁は柚充が琴の稽古を始めると向かい側に座り首を傾げた。
「菊華花魁、、芸は身を助けると言いますでしょう?
出来て困る事はありませんから」
「私、椿ちゃんのそういう所好きかもしれない」
彼女は菊華と言う源氏名の花魁だった。日が登り「夜はありがとう。安心して眠れた」といい、それからこうして柚充の側にくる。
柚充より歳も上で背も高く綺麗な人。
「あ、今そこ間違えた」
「え?違いましたか?」
菊華は柚充の隣へ移動し引いてみせる。
「なるほど。
指の運びが間違っていたんですね。
じゃあこっちも、、」
柚充と菊華の稽古はほのぼのと続いた。
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