始まりの物語2


何故この幼い少女、柚充が自分を選んだのか
一向に解らぬまま1ヶ月が過ぎようとしていた。

ーー日に日に屋敷がピカピカになっていく気がする…。
来た当初は実弥自身もどう扱えば良いのか分からず、とりあえず生活に馴染めという様に放っておいたのだが、、
「あ、実弥様。何か御用ですか?」
またどこかを掃除していたらしくハタキや雑巾を持って現れた。なんとも妙な立ち位置に落ち着いたものである。
「洗濯物はあちらに畳んで置いたので、、」
「あ、いや、そうじゃなくて…」
「掃除のやり直しとかありましたか?今すぐにっ、、」
「違う、違う、違う。」
なにも覚えがないと言いたげに首を傾げてポカンとされるとこちらの方が間違っているのかとさえ思ってしまう程だった。

「そろそろ
 見習いとしての訓練をと考えているんだが、、」
「見習い……えーと、、あ!」
「お前、、忘れてただろ…」
宙に"の"の字を書きながらとぼけようとする柚充に、まぁいいと、先を続ける。
「とりあえずは基礎体力向上の為、
 山の往復からだからな。」


ーーーーーー

「不死川様、もう無理です…」
「勘弁して下さい、、」
弱音を吐いて地面に転がっているのは平隊士。
一方柚充は、涼しい顔をしてそんな隊士達に水を配っていた。
「お前ら、、、訓練始めたばかりの、
 それも子供に負けてんじゃねーよ」

山道を歩きから始めて段々と速度を上げる計画だったが一週間も経たないうちに走って往復する様になってしまった。試しに他の平隊士と共に罠を避けつつ山道を走らせてみると、一人涼しい顔で戻ってきてしまった日には、柚充を褒めて良いのか平隊士をド叱れば良いのか困惑してしまった。


お館様が言った、彼女には素質があるとはこの事だったのかもしれないと思わずにはいられなかった。


ーーーーーー


平隊士の間で柚充の事が噂となっていた。

《風柱の所の少女が驚くべき身体能力である。
 一体どんな血を吐く様な訓練をしているのか》と。
そしてどんなヤバい子かと見に行った隊士によると、
《風柱と対称的な信じられない程の華奢な少女である》と口にするという。



「聞いたぞ不死川!
 お館様の託し子はかなり優秀らしいな!」
「……はぁ…」
「よし!明日から不死川は任務で2日程空けると聞いた!
 お館様の託し子をうちで預かろう!
 実力の程見てみたい!」
「!はぁ?…あ、いや」
「そうだな!明日迎えに寄るから準備しておいてくれ!」
じゃ!と人の話も聞かずに煉獄杏寿郎は去って行った。


唐突に柚充の煉獄家預りが決定した。
 




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