オシマイノ
「あらあら今日は積怒さんの機嫌が悪いのね。
可楽さんがちょっかいかけているみたい。」
呟く視線の先は窓の外で、子供たちが走り回っている。その中の一組、怒鳴りながら追い回す子と、笑いながら逃げる子が居る。
此処は桜が、実家の権利を画廊を営む佐斐に完全に売り、開業した小児を主とした小さな病院。診療所と言った方がしっくりくるのかもしれない。
新生児の取り上げから、その後の母子の介助だけではなく、子どもの風邪など様々なことも見ている。村という小さな規模である事と、村の人が手を貸してくれている為、手広く健康管理が出来ていた。
そしてその病院を中心に、周りには寺子屋と言っては語弊もあるかもしれないが、子供たちが集まって学んだり遊んだりする場所や、居場所を無くした子に衣食住を助ける場所ができて行った。
"村"で子どもを育てる。そういう場所になったのだ。
積怒、可楽。先ほど桜はその名前を口にした。
もちろん子供たちの中に彼らがいるわけではない。でも、子供たちを見ていると、感情の化身である彼らの姿がうっすら見える気がするのだ。
「桜せんせっ!」
窓の外からひょっこりと顔を出したのは、志貴(しき)君。そう、あの"しー君"である。
「今日はお仕事無いの?」
「今は落ち着いてるだけですよ。
赤ちゃん達がおやすみ中ですから。
あとは皆が怪我も病気もしなければ、先生の仕事は
なくて、とっても助かります」
そう言った途端に、遠くから泣き出す声が聞こえてきた。
桜と志貴は「あらあら」と顔を見合わせて笑った。
薬箱を手に桜が広場に接する縁側に出ると、膝を擦りむいて泣く子を哀し気な顔をして連れてくる子が居る。
先程追いかけ合っていた子達だ。
ーー今度は哀絶さん。
「大丈夫ですよ。
これくらいの怪我なら、今のうちに沢山しなさい。
そうして傷つく事は痛い事で、
怪我をさせてしまう事も痛い事と学ぶのです。
いくらでも手当してあげますから。
元気に"仲良く"遊びなさい。ね?」
"仲良く"を強調した事で、後めたい気持ちが湧いたのか先程の2人はコソコソと話をすると、お互いに嬉しそうな顔になった。
きっと謝りあったのだろう。桜に手当の礼を言うと、まるで羽が生えたように再び広場へと帰っていった。
「空喜さんも見つけました」
「また天狗さんのお話?」
志貴は桜の顔を見上げる
「ええ。とっても大切な」
コンコンコン。
ドアを叩く音がして、扉が開く。
「あれ?桜居ねぇか?」
「居ります!今、中入りますね」
来客の声に志貴は「またね」と広場へと走り去って行った。
ーーーーーー
「お久しぶりです。宇髄さん」
変わらず大きな体で、装飾品が付いているわけでも無いのにキラキラしたその姿は懐かしい。
でも、、記憶と違う片腕にどうしても目がいってしまう。
「これでも、生きている。俺はそれで十分だ」
「それに、、」と宇髄の後ろにはお腹の膨らんだ女性の姿。一つ命が産まれるという事だった。
鬼舞辻を討ち取ったあと、桜の元にも鎹鴉がそれを知らせにやって来た。
柱数人の、、しのぶの死亡もその時に知った事だった。その後アオイから痣の事。延命する方法はないかという相談的な内容の手紙も届いた。
だから、鬼殺隊の事はそれなりに耳に入っていた。
「病院だなんて立派だな。
斬る事しかしてこなかった俺には眩しいくらい
派手派手だ。」
宇髄も窓の外で走り回る子どもたちに目を細めた。宇髄の嫁は広場で子ども達に手を引かれながら陽の光を浴びている。
「胡蝶の薬は間に合わなかったのか?」
「…ええ。もう、討たれてしまった後でした。
誰が、、とかそういう事は思い当たっても
言わないでくださいね。知りたくないんです」
皆、やりたくてやっていたことではないのだから…運命に抗う術を持たなかっただけなのだから。
鬼が居なくなった今では、しのぶの作った薬は持っていても仕方がないと、山奥の彼岸花に振り撒いてしまった。彼岸花には毒が有ると皆周知の事実で、花を掘り返す様な者は居ないとの考えでの事だった。
「で。桜の眼鏡に叶う奴はまだ居無ぇのか?」
宇髄の言葉に驚いて目を向けると、悪戯っぽく笑い顔を浮かべている。
「おっ、そうだ、不死川とかどうだ?
アイツまだ独り身だぞ。」
「痣。……私はその結末に向き合う事は
出来そうにありません。
もう、おいて逝かれるのは懲り懲りです。」
困った顔で笑う桜の頭を宇髄は視線を合わせないまま、無言のままちょっと乱暴に撫で付けた。
「っ!…それにっ」
抗議の意味を込めて少し大きく声を出すと、宇髄の手は離れ、桜は落ち着いて続きを口にした。
「私の想い人を越える。
そんな人居ませんから。どこを探しても」
時間が経てば記憶は朧げになってしまうものかと覚悟していた。しかし、その存在は今でも鮮明で暖かい。
話す事も、触れる事も、目を合わせることすら無いそんな残視の様な存在でも十分心の支えにっている。
「それに、宇髄さん。
私、見つけ出すって決めているのです。
想い人が私を見つけてくれた様に、、
今度は私が見つけるのです」
「……桜、お前、変わったな。
おどおどと、いつもどっか怯えてたのに、
感情豊かになったっていうんかねぇ。
独り身ってのが、やっぱ勿体ねぇや」
「?何言ってるんですか?
私は独りじゃ無いですよ。
この通り子供たちに囲まれて賑やかです。
それに宇髄さんも、気にして下さってるでしょう?」
「俺はこれから長い付き合いになるだろう、
お医者先生を気にしてんの」
キョトンと目を丸くして宇髄を見る。
「そうですね、私、子供たちのお医者さんでした」
「ふっっ、しっかりしてくれよ。桜先生。」
笑が込み上げる。
隣の部屋から赤ちゃんの鳴き声が聞こえ始めた。再び賑やかな時間が始まりそうだ。
ーー空喜さんも、積怒さんも、
哀絶さんも、可楽さんもずっと傍に居ます。
だって彼らは感情の化身なのだから。
いつも、いつでも、いつまでも。
私は独りではないのです。
ただ、、
また会う日は目を合わせて
お話しをしましょうね。
-
ページ: