それから話を詰めて予定が完成し、セバスチャンに手配を頼む。
午後は我が家の遊戯室に案内して、
盤上遊戯や、ダーツやビリヤードなど体感で遊べるものもある。中でも人気なのは、前世のエアホッケーに似た卓上ホッケー。滑りやすい盤をはじめ、開発は大変だった。
シャーリーお姉様でも嬉々として楽しめる遊びに、ルシアンやロベルト殿下達も参戦。
遊んだ後は午後のお茶会。夏にピッタリの味わい深いムースケーキから氷菓まで用意した。様々な味を楽しめることから、男性陣も好みの味の氷菓を探して楽しんでいた。
後は夕飯まで自由行動の予定だが……。
「ナディア様、少々よろしいでしょうか?」
カーティスに呼ばれ、
申し訳ないとルシアン達に謝るが、ついでに見学したいと言われてしまった。
まぁ、今回の仕事は外部者が見ても問題ない程度のものだし、いいかな。
了承して執務室に向かうと、昨日のうちに片付けたはずの机に書類の束があった。
王都から帰還したばかりの頃は山だったから軽いものだ。
カーティスの話を聞きながら速読して、重要な
「――と、いうことです」
「なるほど。確かに
「病気ですか?」
「家畜とて生き物。冬になれば鶏に
「畏まりました」
「あと、ついでに魔工製品に使われる魔術紋の運用についての草案をマキシムさんに送って。王都に設立する魔導院の制度を構築して国に提出したいから、なるべく早めに」
書類用の封筒を出すと、カーティスが恭しく一礼して受け取り、退出する。
同時に思い出す。
そういえば以前、ルシアンが私に領地経営の手法を伝授した人に興味を持っていた。
少し遅れてしまうけど、あとでカーティスを紹介しよう。
続いて訪れる官僚の報告を受けたり助言したり、領主として一通りの仕事を全うした。
「――お待たせして申し訳ございません」
「いや、とても勉強になった。ナディア殿はいつもこの量の仕事を?」
「これでも少ない方です。多い日は一日中、王都から帰還した時は三日もかけて溜まった仕事を消化しますから」
帰った時は机に山のような書類があったのだから、あの時の衝撃は凄かった。
ロベルト殿下の質問に答えれば、ディランとオーウェンは気が遠くなりそうな目になった。
「これらの領主としての能力を磨けたのは家令のカーティス・スチュワートがいたからこそです。彼の
「それは
「それがよろしいかと」
視察という名の行楽だと思うと、少し微笑ましくなる。
仕事の見学が終われば、領軍である騎士や警備兵が
兵士だけではなく魔術師もいて、前衛と後衛で連携をとる訓練も行っていた。
兵士が剣を手に立ち向かうが、土魔術で壁を作られて防がれる。
敵の兵士が仕留めようとするが、水魔術を当てられた彼は全身を濡らされた。
これが本気なら死んでいるので、ずぶ濡れになった兵士は退場。
兵士と魔術師の戦闘訓練を
ちなみに腕組みしてそれぞれの戦闘訓練を観察するのが、兵士顧問の教官ウォルター、魔術顧問の教官サイモン。
「……!」
ふと、サイモンが私達に気付いて目を見開く。
そっと人差し指を口元に当てれば、彼は頷いてウォルターの肩を叩き、揃って静かにこちらへ近づいて頭を下げる。
「楽にして。少し見学と相談に来ただけだから」
私の一言で、二人は静かに頭をあげる。
一糸乱れぬ統一感から、かなり訓練したのだと見受けられる。
「相談とは、件の視察ですか?」
「ええ。セバスチャンの伝言通り、明日から数日、お忍びで視察することになったの。私だけではなくお客様と一緒に」
右手で五人を指し示すと、ウォルターはハッと息を呑む。
ロベルト殿下、ルシアン、シャーリーお姉様の容姿は王族特有のもの。
ディランとオーウェンも、高位の貴族らしい服装で気付きやすいと思う。
「急で申し訳ないけど、お忍びに適した腕利きの兵と魔術師を
「魔術師となると、やはり探査魔術と結界魔術の使い手でしょうか」
「そう。その子達の得意とする魔術と相性のいい兵士も」
「畏まりました」
ウォルターとサイモンが
「時にご当主様。彼等を見てどうお思いになられますか?」
サイモンの質問を聞き、訓練場に目を向ける。
少し観察して、感じたことは一つ。
「小手先の技が欠けている、かな」
「小手先の技、ですか」
ウォルターは察しているようだけど、サイモンは掴みにくいようで復唱する。
「例えばだけど、わざわざ土魔術で壁を作って防がなくていいの。動きを見極めて、足元に土を盛り上げて
「なるほど」
「それに、それは悪い技じゃない。貴方達はこの地に住む人々を守るためにいる。大切な彼等彼女等を守るためなら
「――はい。そのお言葉、胸に刻みます」
教官二人が胸に手を当てて一礼する。
それからしばらく観戦して、オーウェンの気が済む頃に屋敷へ戻る。
「フェリス卿」
不意に、オーウェンに呼びかけられる。
畏まった呼び方に驚いて振り返れば、彼は真剣な顔で私を見つめていた。
「何でしょう?」
「貴方は騎士道をどう思いますか」
思わぬ質問に、きょとんと目を瞬く。
考えたことはあるけど、答えるには少し捻る必要があるかな。
「立派な
無茶な要求だけど、王族を直接護る近衛騎士にもなれば、それくらいの技量は必要になる。
王侯貴族を守る騎士の在り方としては、近年ではまともな子が少ないと思う。
まさか国軍の頂点に立つガスリー公爵の令息から質問されるとは予想外だった。
意外に思っていると、オーウェンは衝撃を受けた顔で固まる。
ロベルト殿下も、シャーリーお姉様も、ディランも、とても驚いている。
目を見開いて凝視され、居心地の悪さから
「さすがナディア。父上に認められるだけあるよ」
「……ありがとうございます」
私の答えは正解だったのかな。
不安が過ったが、オーウェンが胸に手を当てて深く頭を下げた。
「オーウェン様?」
「――オーウェンと、フェリス辺境伯」
物凄く畏まった言葉遣いで申し出たオーウェンは、姿勢を正すと真剣な顔を見せる。
初対面の時と違う表情に、ギョッとしてしまう。
「貴殿は自分と違い、既に爵位を
まさかここまで称賛されるとは。
つまり、同年代の子供からも、こういう態度を取られるのが普通になると……?
……
「では、オーウェン。そういう態度は公の場で。今は私的に遊びに来ているのだから、楽にして。それに、私達の祖父はガスお爺様。つまり従兄妹同士なの。立場で兄と呼べないのは残念だけど、私も貴方と仲良くしたい。だから少なくとも、ここでは名前で呼んで」
「……分かった。ありがとう、ナディア殿」
オーウェンは、とても晴れやかに笑った。
私も肩の力を抜いて、五人とともに夕飯に向かった。