招集まで、あと四半刻。
元帥を担う
儂とウォルター大将、ウンベルト中将、バッカーノ少将。他の将校と指揮官より早く集まった儂等は、ある情報を待っていた。
「遅くなりました」
フェリス辺境伯の調査を頼んでいたギュンター大将が、天幕へ戻った。
「いや、つい先程揃ったところだ。して、どうだった」
儂の質問に、ギュンター大将は表情を引き締めた。
「凄まじい、の一言。あれほど先を見据える能力を持つ子供は初めて見ます。本人は戦記ものの小説を参考にしていると言っておりましたが、それを活かせるほどの知略と能力は並大抵では得られないでしょう」
ギュンター大将の
戦争は遊びではない。命を削り、国のために勝つ戦い。
ギュンター大将も、フェリス辺境伯が同行するのを反対していた。
彼女は幼い女児で、大人に守られるべき子供。なのに、フェリス辺境伯という地位についた異才の神童。
アルフォンソ陛下の推薦もあり、仕方なく受け入れたのだが、存外話が分かる。
少ない情報からの推察や、統治者ならではの人心掌握。
憤怒の覇気はガスリー軍務大臣並みに恐ろしく、本能が屈してしまったのは、我ながら情けなかったと反省した。
だが、今回の行軍で思い知らされた。
行軍に必要な物資の選別や、それを成し遂げる財力。切り詰めて余裕ができた予算で、不要と思われる物資の調達。
この不要と思われた物資は、予想外にも士気を高めた。
檸檬の蜂蜜漬け。ライチのシロップ漬け。
本来なら、黒パン、チーズ、干し肉が、行軍の主な食糧。
そこにデザートと思わしきものが導入されたのは複雑だったが、行軍で体調を崩す者はいなかった。普段なら一割は脱落するのに、誰一人として欠けなかったのだ。
水分補給と食糧を兼ね備えたライチのシロップ漬けも精神を安定させる効果があり、脱水症状や精神の
これだけでも充分な貢献度だが、フェリス辺境伯の作戦には
以前の会議でも、敵陣の総大将に魔術師がつく可能性があり、敵の別動隊の戦闘能力から割り出した日程、罠を発動させる頃合いの指定、罠を合図に敵陣への
それら全て、フェリス辺境伯が一人で考えたのだ。
「まさか既に敵陣へ密偵を送っているとは……」
「フェリス辺境伯曰く、敵側の密偵に気付かれないよう秘密裏に行ったそうです」
「……なるほど。確かに敵の密偵が送られる可能性もある」
敵の思惑すら考察するとは、どうすればそんな能力を子供が身につけられるのだ。
「戦略遊戯は苦手だが、逆転遊戯は得意なのだとか」
「いや、むしろ逆では?」
「こんな軍師の如き
ウンベルト中将にバッカーノ少将の感想に、儂も同意する。
戦略遊戯は、縦横八
王、女王が一駒ずつ。砦、聖者、騎士が二駒ずつ。これらの前列に歩兵を守備に配置。そこから王手を決めた者が勝つ。
先を見通した戦略や戦術を鍛える遊びなので、軍師ならできて当然。
これほど先を見通し、先手を打つ能力があるのなら名士だろうと思うのが普通だ。
「ま、まあ……フェリス辺境伯は裏工作が得意なようだから、むしろそちらに力が
「ギュンター大将……お前はフェリス辺境伯の同行に反対ではなかったか?」
ギュンター大将のフェリス辺境伯を
「サージェント元帥。自身の領軍や魔術師だけではなく、志願兵にも慕われるほど有能な人物を認めないわけにはいきません」
「……確かにそうだな」
此度の戦争は、おそらく大きなものとなる。
補給部隊だけでも欲しいところを、フェリス辺境伯の領民が進んで買って出た。
曰く、自分達の領主を守りたいのだと。
これほど領民に愛される領主は、ナディア・フェリス辺境伯以外にいないだろう。
「このひと月、軍の者でさえフェリス辺境伯に一目を置き、尚且つ慕う者もいます」
「ああ……確か『フェリス辺境伯を見守り隊』だったか」
「何だ、それは。初耳だぞ」
ウォルター大将とウンベルト中将の会話に突っ込んでしまう。
まさか一部の軍人の心まで掌握したとは、末恐ろしいにも程があるぞ。
「フェリス辺境伯の頭脳に助かっているのも事実だが、
フェリス辺境伯は十歳の子供。子供に後れを取るなど
しかし、胸中に芽生えた頼もしさは否めなかった。