「あの娼婦の息子糞野郎、上手い事立ち回っているみたいだな!」

「ステンタフは『そういう事』が十八番だからな。……それにそうしてもらわねえと、こっちの首が締まるだけだ」

 ミルユリルの取り巻きが徐々に数を減らしているのを、離れた家屋から静かに窺っているヤガタとネペンテス。二人とも息が上がっている。だがネペンテスに関しては「前は憶しちまったが、今度はそうはいかねえ」と、鼻息を荒くして、疲れてはいないようだ。

「恐らくこれが最初で最後の機会だろう。取り巻きを置いて、ミルユリルが単独行動するかどうかが肝心だ。……まだやる事が残っているんだ、行くぞ」

 ヤガタが小窓に張り付くネペンテスをたしなめる。だが彼は生返事をしただけで、聞いている素振りがなかった。ヤガタは深い溜息をついた。


 ステンタフが考えたのはこうだ。まずいつものように集会に参加し「ある所で良いイル・メ・トーラを見た。自分は余り強くないので誰か見てきて欲しい」と言う。数人が向かうとそこには「一人」のイル・メ・トーラの従者がいる。その従者はすぐに逃げるが、取り巻き達はそれで「良いイル・メ・トーラがいる」という錯覚をする。
 集会へ戻ってきた彼らが「確かにいた」と報告する。ステンタフがそれに発破をかけて「これを逃がしたらもったいない! 俺がとっ捕まえて献上する」といかにも・・・・いきり立つ。取り巻き達も賛同して、さらに大所帯で行動を起こす。次に見た従者は「二人」に増えており、「獲物が増えたぞ! あの一人もとても手強いぞ」とさらにステンタフが声を上げて、彼らは狂喜乱舞する。

 そこで止めの一言。
「矮小な我々が狩りを行うのではなく、ミルユリル様が直々にされた方が、きっとお喜びになられるのではないか」



 街の中を走り回っていた「二人」は、ぜいぜいと壁に手をついていた。

「どっちが撒き餌だ、あの阿呆。自分でやっているのは『餌を撒く方』だろうが」

 流石のヤガタも骨が折れた。ステンタフは若年ぶってはいるが「こういう奴だった」と失念していた。しかしこうも上手い事流れているのは笑えてくる。ネペンテスもようやく理解が及んできていた。

「俺達ができるのはここまで。あとはミルユリルの売女ばいたが乗ってきてくれるかどうかだが」

「締まりはどうなんだろうな」と、場違いな話をし出してヤガタは頭を押さえた。

「よくまあ……。何でそっちの頭回りは早いんだよ、ったく」

 いささか楽観視した無駄話をはさみながら、彼らは最後の場所に向かって移動を始める。
 ミルユリルもまた、行動を起こしていた。ヤガタ達の想像を超えた、恐ろしい思惑を抱きながら。

 夜は更けていく。

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(投稿:2018.07.16)
(加筆修正:2018.07.16)

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