邂逅の先に5
翌日
ーーあ。本当にやるんですね、、。
蝶屋敷の入院服の様な物に着替えて柚充は大きな滝の前に立っていた、、、。鍛錬は理由付けだけでは終わらず。
ーーまぁ、嘘はいけないものね。
「冷たっ!!」
手を水に入れてみると思った以上に冷たかった。しかし、理由のない鍛錬など存在しない。
覚悟を決めて川に入ると滝の下に立った。しかし、水の勢いで真っ直ぐ立つ事が出来ない。体勢を直そうと足の位置を動かした。途端に
ツルっ…、、、
水と一緒に流されてしまった。
ブクブクブクーー………
「え?柚充?!だっ!大丈夫か!!!」
ぶぁっさああぁぁー
水飛沫と共に水面から顔を出す。
「………悔しい。」
周りの声なんてもう柚充には届いていなかった。ただ滝に流された事が悔しくて、絶対攻略してやると集中し始めたのだった。
ーー体が小さいから出来ないなんて……
「たまったもんじゃないわ!!!」
それから4、5回流されただろうか…
体も心も冷えて一度川から上がった。
ペタリと座り込み、肩で息をしていた。
ーーああ、水から出るだけであったかいよ。
「大丈夫か?……あ、(カアアアァ)」
玄弥は柚充の返事を待つ事なく離れていった。
逃げていった方を見ると、腕で顔を隠して更に顔を逸らしていた
「?どうしたの??」
「いや、その、なんていうか……」
ふさああぁ
上から柚充の羽織が頭に降ってきた。
見上げると爽籟とひかた。羽織を届けに来たと直ぐに察した。きっとひかただけでは運ぶ事が出来ずに爽籟が協力したのだろう。意外と仲のいい二羽である。
「二人ともありがと!!実弥様によろしく伝えて」
柚充は羽織を胸にギュと抱いた。
ほのかに実弥の香りがした。
「………。やれる気がして来たぁ!!」
玄弥は一連の柚充を見てやはり兄のそばに居られる事が羨ましいと思うと共に兄が慕われていると分かって誇らしく思った。そして、また自分も努力をしようと心に誓った。
その後は滝に流される事なく滝行に励んだ。まぁ水の冷たさを我慢しすぎて最後は気を失って流された事は数に入れずにおくことにしよう。
因みに、流された柚充は赤面した玄弥によって引き上げられ、羽織をかけた状態で寝かされていた。
ーーーーーー
「ほかほかご飯!!」
「どんな目覚めだよ!!」
「え?違うの?」
「違くないけど!当たってるけど!!」
悲鳴嶼と玄弥と遅めの昼ごはんを食べた。
そして再び滝行へ。
「アイツどうなってんすか?」
「お館様から託された時からああなのだ。
最初こそあの吸収力である程度そつなくこなしてきたが
次第にそれだけではな……。吸収力はあるものの
体格には恵まれているとは言えない。
その分負けず嫌いで、努力で補い吸収する。
でもその分辛い思いも、苦しい事も乗り越えて来た。
玄弥。
一人だけが辛い道を歩んできた訳で無いと理解する事が
お前には必要な事だった。
人は一人で強くなれるわけでは無い。
柚充と向き合う事もまた必要な事だ」
ーーーーーー
「柚充よ。そろそろ上がって来なさい」
柚充は頷き、戻るための一歩を踏み……外した。
派手な水飛沫が上がる。
「いったぁ!水に顔打ったぁ!」
顔面を抑えながら浅瀬に戻ってくると、玄弥が目を逸らしたまま羽織を差し出していた。
「…ほらよ、、」
「ありがとう。」
笑ったその顔は鼻の頭が少し赤くなっていた。
「そういや、なんで柚充は兄貴から逃げてたんだ?」
「……………カブトムシ」
「は?」
「………カブトムシ逃しちゃって、、、」
「マジか…。」
ーーーーーー
屋敷に戻ると爽籟ではなく何故かひかたが実弥の膝の上にいた。そして虫かご。
「なんで!いるの!」
虫かごの中にはカブトムシ。
「お前の鴉が咥えて来た」
「……す、すごいね。ひかた」
ひかたが柚充の方へ飛んできたので、腕に止まらせる。
「柚充モ。同ジ」
「しーー。
…逃してくるよ」
「何言ってんだ?」
柚充の背に隠してあった虫かごに気づくと実弥はひょいと持ち上げる。
中を覗き込み、少し驚いた顔をした。
柚充の頭をぽんぽんと撫でて実弥は自室へ去っていった。
実弥の部屋の虫かごにはオス2匹とメス1匹のカブトムシが飼育されているという。
玄弥が捕獲に尽力した事を実弥が知るのはもっと先のお話。
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