遊郭
ベン!ベン!ベン!ベン!
ーー天元様。もう少し綺麗に飾ってやっても
良かったのではないでしょうかね?
飾り方次第ではきっと美人になるよあの子。
柚充は京極屋にいた。
"善逸"改め"善子"は宇髄への恨みを糧に三味線の腕をメキメキと伸ばし、柚充の存在にはこれっぽっちも気づいていなかった。
柚充は京極屋で"夏椿(なつつばき)"として潜伏していた。宇髄から遊郭の怪しい動きは聞いていたし、前に男装して客として潜入する宇髄に同行していた。男性隊士なら山のように居るのに、何故自分が男装してまで同行するのかと問うと"任務を忘れないから"と言うことだった。
確かに女の柚充なら、同性の色香に落ちることはない。
しかし今は目の前の問題。
ーーこのままだと任務に支障をきたしそう。
柚充は善子の近くに琴を出し、善子の三味線の音に合わせて琴を奏で始めた。次第に善子の怨みの込もった三味線が穏やかな音へ変化して行く。
「善逸、、落ち着いて」
音に紛れて柚充は呟く。その声は善子の耳に届いていた。一変した音色に周りが聞き惚れる中、曲の終盤、柚充はわざと一音を違える。
「……間違えてしまいました。ごめんなさいね」
やんわり微笑むと琴を片付けに席を立つ。
「面白いもんが見れるって言うからきたのに、
もう終わりかい?夏椿?」
「人と合わせるのはまだ早かったみたいです。
もっと練習してからまたお願いしますわ」
姉女郎にも、笑顔を向けるとそのまま柚充は部屋を出ていった。
「あねさん、あの人小さいのに
もうお客がついたりしてるですか?」
「あー夏椿かい?あの子はまぁ、不憫な子だよ……
憑き物付きみたいで、
水揚げすら済んでいないのに客に出されたらしいわ。
まぁ、その客も逃げ帰ったらしいけど。
なんでもあの子に触ろうとすると、白髪の血濡れた
恐ろしい鬼の姿が見えるらしいわ。
その目は血走り、鋭く吊りあがり、
顔や腕にはたくさんの傷を蓄え、時には刀を振り回して
追いかけてくる姿を見た客もいたそうな」
ーーえっと、白髪で吊り目。顔や体に傷があって。
刀、、、。鬼の形相と。
善子の頭の中では柚充の師、不死川実弥の怒りに染まった姿が再生されていた、自分の想像の姿であるにも関わらず、背筋にヒヤリとしたものを感じてしまった。
ーーあねさんっ!それ!実在する人ぉー!!
ガクガクブルブルする善子をよそに姉女郎は話を続けて行った。
「話相手にと変わった客の指名がないわけでも無いけど、
滅多に部屋には上がらない子だよ。
まぁ、あの子は借金がある訳でもないし、
広間にいても稼げるから、店に不都合は無いそうよ」
「はあ。」
「ささ。善子、お前は他の仕事にお行き」
現実に引き戻された途端に再び宇髄への恨みが膨らみ出す。
その姿を見た柚充は人知れずため息をついたのだった。
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