対上弦2
ーーやってしまった。
大した傷ではないのに肩が焼けるように熱い。がくりと膝が折れ、床に座り込んでしまった。
妓夫太郎は血鎌には猛毒があると言った。
視界が霞む。
ーー天元様、よくこれで動いてたよね、、
「っ!柚充!!!大丈夫か!
柚充!!」
炭治郎が名を呼ぶ声が段々と遠のく。
毒はまわる。血液に混ざり全身へ、指先、足先へ。拒否反応で汗が吹き出し熱いのか寒いのか…回復がままならない
ーー天元様と炭治郎が、、
善逸、伊之助が戦っているのに、、
意識が深く沈んでゆく…
ーーーーーーー
『うぬは何故戦っている?』
『何故刀を向ける?』
『何のためか?』
「誰?」
周りを見渡すもののその声は何処から聞こえてくるのか分からない。自分の姿以外は全てが闇に沈んでいる。それは何処までも深く、徐々に闇の中に引き摺り込まれてしまうのではという不安が大きくなってゆく。
『刀を向けている存在と、うぬと
どれほどの差があるか分かっているのか?』
「力の差が大きくたって、私はアイツらを斬るの。
そう決めてるの!!」
闇に飲まれてしまわないように。そして自分に決意を思い出させるためにも声にする。
『でももうダメであろう。うぬは動けまい』
『それに、、、』
『うぬとて…………のに?』
「は?何を言ってるの?!
隠れてないで姿見せて話しなさいよ!!
卑怯者!!ふざけないで!!
あなたに何がわかるって言うの!」
『うぬこそ何も知らぬではないか…』
「な、にも、、知らない……」
ーーどう…いう事?
柚充は自分を知らない。
隠の母様と出会った後の記憶しかないから。
誰の子でどうやって生きてきたのか分からない。赤子が一人で生きられるはずはないから誰かがそばにいたはずなのに。その人のことは何一つ思い出せない。
歯痒い。言い返せない事が悔しい。
そして……悲しい。涙が瞳に溜まっていく
見えない誰かが笑う。嘲笑う。
柚充の心を黒く塗りつぶす…
闇が周りを包む…
涙が流れた……。
《落ち着け。柚充。大丈夫だ》
声と共に柚充の涙を隠すように背後から手が伸び目を覆う。
背中が、目元が暖かい。
振り向かずとも声で分かる。
柚充にまとわりつこうとしていた闇は一瞬で祓われた。
ーーそうだ。この人はいつだって私のおひさま。
《ほら、不死川も言っていただろう!》
《下を向くな》
ーーそうだ。毒になんて負けない。
………私には怖いものなんて無いんだから!!
刀を構える。しかしその構えは風の呼吸の構えではない。
「うむ。では行くとしよう!」
「はいっ!!」
ーー振り返らないよ。
だっていつも羽織と共に居てくれるから
ね?煉獄さま。
ーーーーーー
炭治郎と宇髄は雛鶴の手助けを受けて妓夫太郎を追い込んでいるかに見えていた。
善逸と伊之助はなかなか堕姫追い込めずにいた。そんななか、堕姫は床に膝をついて動かない柚充に気づいた。
『なぁに夏椿。アンタお兄ちゃんに大口叩いた割に
毒にやられてんじゃない。
ああそっか。トドメを私にって事ね。
………じゃあ死にな』
座り込む柚充に無数の帯が向かっていく。
「柚充ちゃん!!」
「柚充子!!」
誰もが自分の戦いで傷付き、気付くことができても助けに走ることはできなかった。柚充に帯が向かっていくのを見ている事しかできない。
ふわりと始まりこそ穏やかに
直ぐに荒々しく。
風が巻き上がる。その風は無数の刃となって帯を切り裂く。そして切り裂かれた帯はどういうわけか炎に焼かれ灰になり風に吹き飛ばされていった。
炎が消え灰が吹き飛ぶと、そこに柚充が立っていた。
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