対上弦4
柚充の首に堕姫の帯が充てがわれている。
わずかに傷となっており、一筋血が流れていた。汗が傷口にしみる。
『なつつばきぃ?動くんじゃないわよ。
アンタは最後に殺すから。
仲間が苦しんで死んでいくのを見て絶望の中、
私に首を切られて死ぬの。ほら見なさい』
堕姫に顎を掴まれ、倒れる宇髄を、胸を刺された伊之助を、瓦礫に挟まれ身動きの取れない善逸へと順番に向かされた。そして最後は妓夫太郎に向かい合う炭治郎を。
指を折られ、罵られ、何も言い返すことないその姿。言葉にできない感情が押し寄せ、柚充は歯を食いしばっていた。
『ふふっ。みっともない』
ーー違う。そんなことない。
炭治郎は首を持ち上げ、空を向く。
『人は嘆く時、天を仰ぐんだぜ
涙が溢れねぇようになああ』
その時、柚充の頬を風が撫ぜる。
ーー風が変わった……
「俺は…俺は……準備してたんだ」
炭治郎の怒りに満ちた低い声。
耳に届いた刹那、彼は動いた。
ゴッ
炭治郎が妓夫太郎に頭突きをおみまいしたのだ。その予想外の動きに、妓夫太郎だけでなく、堕姫もまた一瞬取り乱す。
『お兄ちゃん!何やってんの!!』
柚充も炭治郎が作ったその隙を逃さない。
帯の拘束から抜け出て帯を切り裂く。
堕姫と向かい合い出方を伺う。
正直、たった数十秒のことなのだろうが、堕姫と腹の探り合い状態だった。どちらも簡単には動けない。
それでも、そこに光は差す。
黄色い髪の少年。そこに耳を塞いで蹲っていた姿など微塵もない。
帯を足場に飛び上がる
「善逸!!」
「霹靂一閃 神速」
善逸の刀が堕姫の首を捉えた。
切れると思った。しかし堕姫の頸は帯になり、刀に沿ってぐにゃりと曲がる。柔らかい頸は刀の勢を殺し、それ以上切り進むことが出来ない。
『アンタがアタシの頸を切るより早く!
アタシがアンタを細切れにするわ!!」
堕姫の帯が善逸の周りを取り囲む。
頸を落とされそうな堕姫も必死でなのある。
「爪々・科斗かぜっ」
風の爪は帯を切り裂く。しかし、帯を刻み続けることは出来なかった。体の内側から血が上がり柚充は血を吐く。毒は確実に体を蝕んでいた。倒れそうになる体を目一杯踏ん張って留まり。袖口で血を拭った。
炭治郎の方に目をやると、宇髄が炭治郎と共に妓夫太郎と刃を交えていた。
柚充は刀を握り直す。
ーー刀が重い、、でも私がやらなきゃ。善逸まで、、
「爪々・科斗風」
ーー目が、、霞む、、
柚充の風を追いかけるように走り込む影。その影は堕姫の帯をどんどん切り刻んでゆく。そして荒々しいその姿は叫んだ。
「俺の体の柔らかさを見くびんじゃね"え"!
内臓の位置を"ズラすな"んて
お茶の"子さい"さい"だぜ!!」
伊之助の刀が善逸の刀と逆方向へ堕姫の頸へ向かう。
ーー…お願いっ、、斬って、、
ぼやけた視界に炭治郎、善逸、伊之助の声がする。皆最後の力を振り絞って刀を振り抜いた。
「「「うおおおおおおお!!!!」」」
3人の叫び声が重なった時、妓夫太郎と堕姫、2つの頸は身体を離れ空へと飛んだ。
ーーっ!!
風が頬を掠めていく、それは血の匂いを含んでいて柚充は色の無い視界の中、廓の上から飛び降り走る。感覚などもう何も感じることはない。想いだけで、身体がついてきていないとさえ思えた。
「柚充!!!来るなっ!逃げろーーーッ!!!」
柚充には宇髄の声は音として届いていない。たとえ届いていても彼女の足は止まる事はなかっただろう。
もう失うことだけはしたくなかったから。
宇髄と炭治郎に向かって飛び上がりながら刀を振り上げる
「晴嵐風樹ーーっ!!!!」
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