帰還


遊郭から柚充は隠に背負われ蝶屋敷へと運ばれた。伊黒が来た際、鏑丸と戯れる元気があったため大したことはないと思われたが、蝶屋敷に着く前に眠りにつき、そのまま2週間眠りつづけていた。妓夫太郎の毒は特に中身(内臓)の方に影響を及ぼし、肩の傷も残念ながら跡が残りそうだという。

「炭治郎も伊之助も柚充ちゃんも
 まだ起きないっすね。
 ってかおっさんはその腕大丈夫なんすか?」
「もう刀は握れねぇから、鬼殺隊は引退したさ」
「いや、そういう事じゃなくて、」
「柚充が、直ぐに縛っておいてくれたから
 この程度で済んだってところだな。
 コイツも返さなきゃいけねぇんだがな…」
宇髄の手には柚充の髪紐。新しい物と元々柚充の物と2本用意はしてあった。しかし肝心の柚充はまだ目覚めていなかった。

「柚充ちゃん血を吐いたんすよ。
 頑丈な伊之助ならいざ知らず、華奢な柚充ちゃんが。
 ……もうきさ
「その先を言っていいのも、
 決めんのも俺たちじゃねぇんだよ」
善逸は言葉を飲み込み入院着を握りしめた。



「じゃ、風のおっさんが来る前に俺は行きます」
笑って病室を後にする善逸であったが、その眉はいつも以上にハの字に曲がっていた。


ーーーーーー

「……子、……よ、、ぜ」
「そ……どう、、、でも………」


ぼんやり人影が柚充の目に映った。
「……おは…うこざ…ます?」

時間は分からなかったが、起きたらまず「おはよう」と思い、口に出してみたものの、その声は掠れところどころ言葉が抜けていた、、、。

「やっと起きたな。寝坊助が」
「不死川、胡蝶呼んでくるわ。柚充後でな」
宇髄は実弥と柚充を残し病室を出ていった。
柚充は手首から先だけ上げて手を振って宇髄を見送る。戸が閉まった途端、実弥から不機嫌オーラが立ちのぼる。恐る恐る目を向けた柚充が見たものは、いつも以上に目が鋭くなった師の姿。口元は弓のように弧を描きその隙間から黒い霧でも出ている幻が見える。とにかくお怒りなのである。

カタカタと音が聞こえてきそうなほど柚充の体は震えた。滝汗も流れている気がする。

「おぉーまぁーえぇーがぁー突然消えると、
 だぁーれの任務がふえるとおもうぅー?」
「………しゃ、、しゃねみしゃまれす、、」
怖すぎて目を合わせることが出来ない。
「分かってるじゃねぇか。無茶までしやがって。
 覚悟はできてんだよなぁ?あぁ??」

「コラコラ。病人脅したりしちゃダメですよー
 上弦を斬ってきた功労者でもあるんですから、
 労ってあげないと」
からからと戸の開く音と共にしのぶが病室に現れた。

「しのぶさまーー」
横になったまま助けを求めるようにしのぶに手を伸ばした。
しのぶはベッド脇の椅子に座ると柚充の頭を撫でる。
「そうやって甘やかすから
 コイツが自由奔放なんじゃねーか。
 ケツ拭いて歩く俺の身にも、、」
「まぁ、女の子に向かってケツだなんてなんて言い方
 するんですかぁ?柚充ちゃんも大変ですねぇ。
 ヨシヨシ」
「なっ!!俺は、、」
「ところで不死川さん?
 いつまでここに居るんですか?
 検診が出来ないんですけど?
 それとも見てるつもりですか?」

瞬時に意味を察すると、気まずそうに言葉を飲み込みニコリと笑うしのぶに舌打ちして実弥は病室を出て行った。

「素直になれば良いのに…」
ね?と笑うしのぶに柚充はポカンとしてしまった。まさか実弥をこうも簡単に言いくるめてしまうとは思っていなかったからである。

「でも、柚充ちゃんも
 あまり心配させすぎちゃいけませんよ?」
「……はい」

そして柚充の検診へと移っていった。


ーーーーーー

後日。
宇髄が柚充の髪紐を届けにやってきた。しかし、柚充は差し出された髪紐を受け取ると宇髄に向かって口を開く
「これ、私の髪紐じゃないですよ?」
それを聞いた宇髄は目を丸くして盛大に笑った。そしてもう一本の髪紐が現れる。
その髪紐は僅かに黒っぽくくすんだ常盤色をしていた。
柚充はその髪紐を笑顔で受け取る。




「お前は持ち物を血で染める趣味でもあんのか?」
「違いますよ。失礼ですね!」
柚充の手に収まった髪紐を見て実弥は呆れたという。
 




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