闇堕ち


実弥は柚充が縁側で膝を抱え座っているのを見つけた。

この小さな体でいったいどれだけのものを抱え込んでいるのだろう。刀を持たずに生きられていればこんなに苦し気に過ごす事はなかったろうにと思わずにはいられない。

「身体はもう平気か?」

実弥は隣に腰を下ろす。宇髄と共に向かった遊郭で上弦の鬼の毒を喰らい見た目以上に内臓が負傷していると聞いていた。

「見えないので確実なこと言えませんけど、
 多分もう大丈夫です」



「宇髄がお前の事、格好良かったって言ってたぞ」
「そんなお世辞言っても何も出ませんよ……
 私がもっと上手く立ち回れれば、
 天元様は手を失わずに済んだ。
 炭治郎も伊之助だってあんな傷を負わなくてよかった。
 そんなのばっかりですよ。
 私はいつも結局守られて、、
 継子なのに…
 こんな継子じゃ、
 鍛錬を続けてくれる実弥様にも申し訳ない、、」

柚充の言葉に実弥は大きくため息をついた。
「あのなァ。継子であってお前は柱じゃねぇんだ。
 他の隊士の怪我まで自分のせいにするのは、
 一緒に戦った奴らを下に見てるって事じゃねぇのか?」
「っ!、、私は!
 そんなつもりで言ったんじゃないです!!!」

「じゃあそんな言い方すんな。
 人の怪我まで背負うな。」


柚充が袴を握り下を向く。


「……今回、初めて任務で怖いと思いました。
 任務って言っても、私が勝手に天元様に啖呵切って
 首を突っ込んだだけなんですけど」
自虐が混じる。
「時透様、、また紙飛行機作ってくれるかなぁ」

「………」
鬼舞辻に遭遇して、言葉を交わした事は報告に上がっていたものの、実弥はそのことを柚充の口から聞き出そうとはしていなかった。
「鬼舞辻と対峙して殺されるかもと思った事も確かです。
 でもそれが原因の怖さじゃなくて、私を通して知らない
 人を見ているのがとても気持ち悪くて怖かった……」
実弥は柚充がまた泣いてるのかと思ったが、その目はどこか遠くを見ている

柚充の首に残る無惨に絞められたという跡。
無意識に手を伸ばしていた事に実弥はハッとして指が触れる前に手を引っ込めた。

「私は隠の母様と出会ってからの記憶しかありません。
 なのによりによって鬼舞辻が知ってるかもしれないって
 一体どんな巡り合わせなんですか………」
母が鬼になってしまった時の冨岡の言葉が柚充の中で蘇る。

《お前の血があの女に落ちた途端に鬼化した
 少なくとも俺にはそう見えた。》

ーー私は一体なんなのだろう。

不安を孕んだ柚充の目が実弥を捉えた

「例えそれが事実でも、今は考えたって仕方ねぇだろ」

実弥にとっての柚充は少なくと鬼舞辻の回し者だとは決して思えない。
本気で鍛錬し、死ぬ気で鬼と向かってきたのを知っている。同じ場所で生活している自分がよく分かっている。見てきた事に自信があるから目の前の柚充のことを信じている。それだけで十分だった。

言わずとも伝わっていると思っていた。

「もし任務をおりたいと言うのであれば
 俺からお館様に話をしてやる。
 隠の里の件は片付いてんだ。
 お館様との約束は果たしてんだろ。
 恐怖で刀を置く隊士だって珍しくねぇ」

辞めてもここを出て行けとは言わないと実弥は付け加える。
しかし、実弥の言葉に柚充の表情が歪んでいく


「何でそんなこと言うんですか……
 怖いと思った私は、足手纏いですか?
 もう戦えませんか?必要ありませんか?」

柚充は実弥の正面に立ち捲し立てる

「鬼も討たずに
 ここでなにをしていろって言うんですか!」

柚充は裸足のまま外へ駆け出していた。実弥が急いで追いかけるものの、その姿を捉える事はできなかった。


そう。不死川実弥の敗因は

言わずとも伝わっていると思ったこと……


ーーーーーー


「?どうした鏑丸?」

任務の帰り道、鏑丸が茂みの方をしきりに気にしている。
しまいには珍しく自分から伊黒を離れ茂みに頭を突っ込んだ。なかなか戻ってこない為、伊黒が茂みを覗き込むと、鏑丸の反応に納得がいく。

そこには柚充が丸くなって寝ていた。

鏑丸が頬に擦り寄っても起きる気配がない。
心なしか鏑丸が不安そうにみえた。
そのままにしておくわけにもいかないため、伊黒は柚充を抱き上げる。そしてその時柚充が、裸足である事に気づいた。そして頬には涙の跡。

ーーまた不死川ともめたな。

小さくため息をつくと歩き出した。
 




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