鬼の血2


目が覚めると、柚充は藤の花で周囲を囲まれた布団に横になっていた。
血まみれの服は蝶屋敷の入院服に変わっていた。
柚充の中の鬼の血が拒絶の反応をしていて、布団の上以外を動く事はできそうにない。
しかしそれは今の柚充にとって有り難くもあった。

「目覚めたか。礼を言わなければと思ってな」
藤の花の外にいたのは悲鳴嶼だった。
悲鳴嶼の姿を捉えた時、羽織とポーチも藤の花の外に置いてあるのが目に入る。
「礼ですか?私は何もしていませんよ」
「君は、玄弥を、あの兄弟を守っただろう?」

そう言われても柚充にはピンと来ない。
「絆というものは、一度壊れてしまうと、元に戻す事に
 難儀する。相手を思いやる気持ちがあっても、
 それを伝える術を違えてしまえば、同様に歩み寄る事が
 出来ない。今ですら上手く向き合えていない2人を
 繋ぎ止めたのは、君の手柄と言っても過言ではない。
 だから礼なのだ。感謝している。」

「玄弥は?大丈夫でしたか?」
「風柱と会う事がないように刀鍛冶の里へ行かせた。」
「確かに今は離しておいた方が良いですもんね」
原因が自分とはいえ、柚充の口から乾いた笑みがこぼれた。


「でも、、私は、
 鬼となってまで生きたくはありませんでした……
 いっそ玄弥も実弥様も頸を落としてくれたら
 良かったのにと思ってしまう……」
「しかし、それは誰もできぬ事だったと私は思う。
 私は目が見えない。確かに鬼の気配はあるが、
 こうして会話が成立している。そして、声色も皆を思う
 気持ちも、以前のままだとしか言いようが無い」

「でも、私は実弥様に飛びかかってしまいました。」

鋭く尖った牙を向いて。鋭利になった爪を向けて。
実弥の稀血を求めてしまった。


「私はまた……実弥様に会えますか?」

「……それは、……少なくとも今は出来ない。
 君が言うように、風柱は稀血であるから、先程の様に
 君にどんな影響が出てしまうかも分からない。
 だから会わせることはできない。」
「ごめんなさい。そうですよね。分かっては居ます。
 私も実弥様を傷つけたくはありませんから」
「私からも偽りなく報告する。
 だから少し辛抱してくれ」



「あの。一つお願いしても良いですか?
 私のポーチに血を取る道具が入っているんです。
 炭治郎の知り合いで、お館様も知ってる人に調べて
 もらうための物なんですけど、とってもらえますか?」
相変わらず悲鳴嶼は目が見えないと言うのが嘘のような動きで柚充のポーチまで辿り着く。
「………これで良いだろうか?」
「それです。」

藤の花の隙間から悲鳴嶼は柚充に渡す。

「ありがとうございます」


ーーーーーー


悲鳴嶼が去った後、訪れる人は居ない為静かに時間が過ぎていく。血を取る作業は思ったより簡単に済んだ。しかしあの時の猫さんは現れていない。
顔を上げると窓があり窓の外には月が見えていた。

ーーあの時もそうだった
日輪刀の色が変わらなかった日の夜を思い出す。
あの夜は何故か隠も席を外して1人きりだった。鋭く尖っている両の爪を見つめ虚無感に襲われる。

ーーでもあの時とは全く違うんだ……
  実弥様はここに来ない……

「実弥様……」
ーー私は鬼として生きていたくない。
  私は実弥様の隣に居たい。
  この血さえなくなってしまえば、、

鋭くなった爪を首筋に立てる
ぬるぬると気持ちの悪い感触。
意識がだんだん遠くなっていった。




ーーーーーー

「どこ行きやがった!」
ーー私はここ

「間合いが違うじゃねーか」
ーー目を閉じて動くのは怖いんですって

「お前は少し警戒しろ」
ーーみんないい人ですよ

「ちゃんと分かってる。
 だから、下を向くな」
ーー実弥様の所を選んでよかった


優しい記憶に包まれてしばし眠りつづけた。
 




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