鬼の血3
目が覚めた。銃で打たれた肩の傷と自ら傷付けた首の裂傷は塞がり、一方、爪と牙、そして現状は何も変わっていないことに絶望した。
どれくらいの時間が経ったのかすらわからない。孤独が柚充を押し潰そうとする。
「実弥さま、、あいたいよお、、」
布団に突っ伏して泣き続けた。
顔を上げ、ふと目に入った藤の花
《鬼に藤の花は毒です》
手を伸ばしただけでも嫌な感じがする。花を摘み取ると指先がひりひりと痛みを感じる。それでも摘み取った花をためらわず口へと運んだ。
ーー消えて、消えて、消えて、消えて、消えて
胃液と共に藤の花が逆流した。
身体の奥が痛くて仕方がない。
それでも再び花に手を伸ばす。
今度は戻してしまわないように手で口を塞ぐ。
咳き込みと同時に胃液とは違う感覚を手に感じた。
それでも柚充は花を口に運ぶ事をやめなかった。
ーーーーーー
「柚充の気配が消えた……」
藤の部屋にあった鬼の気配が消えた。
実弥は隠や他の柱達が止めるのを振り切って藤の部屋へ向かった。もう無我夢中だった。
逃げてしまったのであればそれも問題であるが、もしも命を落としてしまっていたら、、
「柚充!柚充!」
部屋の扉を開け、藤の花の先には倒れ込む柚充の姿。青白い顔に、口元には血の跡が付いている
そして、髪の毛が真っ白になっていた。
実弥は思わず柚充を抱き上げる。
手からこぼれ落ちる藤の花を見て実弥は察した
「不死川さん。柚充ちゃんを見ますから、
一度離してください。」
「コイツ、藤の花を食べたんだ、、」
「っそんな、、毒以外の何物ではない事くらい
知っているでしょうに」
いくらぐったりしていても、今、柚充をこの部屋から出す事は許されていない。
「不死川さん。急いで蝶屋敷から必要な物を集めてきて
ください。アオイに言えば全て揃います」
しのぶは紙にぺんを走らせると、実弥に差し出す。紙と柚充を交互に見て明らかに戸惑っていた。
「早くっ!!」
その声に肩を震わせると柚充を布団に下ろし、紙を引ったくるようにして走り出す。
ーーーーーー
柚充は蝶屋敷へと移された。
一先ず簡易の血液検査ではあったが、柚充の血の鬼から検出される成分がほとんどみられなくなったからである。
鋭い爪も牙も無くなり今では髪の色以外は元通りになっていた。
しかし、藤の毒の影響なのか柚充の意識は戻らず、しのぶによって生命維持のための処置がなされていた。
「不死川。お前は任務が入っているはずだ。
柚充の様子なら見ておいてやる。
少し休んでお前は任務に行ってこい。」
「ああ」
伊黒が声を掛けるものの、実弥はその場を動こうとはしなかった。
柚充から鬼の気配が消え、蝶屋敷へ移動された日から任務以外ほぼずっとそこに居る。
「おまえはそれで柚充に恥ずかしくないのか……。
少しは考えたらどうだ、柚充が目覚めて
お前のこんな姿を見たらどう思うのかと。
お前は風柱だろ。
そもそもお前がここに居て何が出来る?
お前が居たところでここでできる事は何もない。
せいぜい柚充の様子を見に来る蝶屋敷の女達を
怖がらせるくらいのものだろう?
お前にできるのは鬼を斬って少しでも無惨の尻尾を
掴む事ではないのか!いい加減切り替えろ。
お前の継子が無惨の血と戦っている時に、師のお前が
ここで腑抜けていてなんの足しになる!!」
伊黒は胸ぐらを掴んでいた。柚充の事を心配しているのは分かっている。伊黒にも実弥と共に隠に柚充を目の前で連れ去られた負い目もある。それでも、柱は、なかでも実弥は潰れてはいけないのだ。柚充は生きている。
そして柚充はちゃんと実弥の元に戻る。そう思うからこそ、伊黒は実弥を焚き付ける。一発でも殴ってやらなきゃ戻らないのかと思ったのとほぼ同時に伊黒が掴む手に実弥の手が重なった。
「悪りぃ。……目ぇ覚めたわ。
、、柚充の事たのむ」
「目を覚まさずに寝て、任務をして来いと言ったんだ。
人の話もちゃんと聞けなくなったのか?」
実弥が病室を後にするを見て伊黒はホッとした。
「伊黒さん。ありがとうございました」
「俺は不死川のバカに言いたいこと言ってやっただけ。
で、、実のところ柚充は?」
「正直、大した事は分かっていません。
鬼化は止まっている事だけは確かですけど、
髪の色が変わった事も、目覚めない理由も、、」
「胡蝶も少し休んだらどうだ……」
しのぶは苦しそうに笑い、蝶屋敷の主人としての仕事へ戻っていった。
「…… 柚充。みんな心配してる、、
早く目覚めてやれ、、」
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