来訪者と2
柚充が、伊之助の攻撃をひらりふわりと躱していくものだから、伊之助はますますムキになって木刀を振り回す。前傾姿勢で向かってくる伊之助の攻撃を飛び上がって躱すとその背に足がつく。そして背を踏み台に更に飛び上がる。その瞬間に伊之助の被り物を奪い取った。踏み台にされた伊之助はうつ伏せに倒れ込む。
「白胡麻ぁテメェ!!」
イノシシの被り物を鞠のように手の上に乗せてしてやったり顔の柚充。
「善逸!!これ預かっててー」
そう言って伊之助の被り物を善逸に放る。
「紋逸!!汚したらタダじゃおかねぇからな!
あと!木刀もう一本寄越せっ!」
「この木刀結構重いよ。いくら伊之助が二刀流でも…」
「うっせぇ!!寄越せっつったら寄越せ!!」
2本の木刀を手に伊之助は目を輝かせていた。
"強い奴と戦うため"伊之助の鬼殺隊の始まりはこれだった。
鬼との戦いは確かに命を賭けの戦いであったが、鬼と人、同じ条件ではない。
今目の前で、同じ条件で向き合う相手が居る。
那田蜘蛛山で力の差を自覚させられ、柚充に向かって「お前を倒す!」と言ったこと。それは絵空事ではなく本気で成し遂げたいと思って言ったこと。
柚充が言った"ことだま"
叶えたいなら口に出せ
「柚充を倒す!!」
2本の刀を振り回す伊之助の攻撃に柚充は躱すのではなく木刀で受けたり、振って打ち消したり、さっきまでの闘い方とは全く異なっていた。木刀の交わる音が休む事なくなり続ける。
善逸は口をポカンとあげて二人の打ち合いを眺めていた。
「……ほらよ」
「あ、どうも。」
突然横から差し出された水を伊之助と柚充に目を離す事なく受け取り一口含む。
ーーあれ?誰か居たっけ?
ふと浮かんだ疑問。差し出された方を見て一つ先の縁側の柱まで後ずさった。
「かっ、かっ!風のおっさっ」
「あ"あ"ぁ?!!!」
「ヒィーーーー風柱ぁ!!」
「すいません!すいません!勝手に入ってすいません!
イノシシ連れ込んですいません!!」
実弥は呆れ顔で盛大にため息をつく。
柚充と伊之助の方を見ながら善逸に答える。
「鍛錬してるやつにどうこう言うつもりはねェよ」
ーーあれ?優しい音?
「………あの」
「……寝てた割に意外と動けんのな、」
耳の良い善逸でなければ、実弥の呟くような声を拾う事はできなかったのかもしれない。善逸が伊之助と柚充へ目を向けると、勝負が付いたようで、柚充の木刀が伊之助の喉元に向けられていた。
縁側の善逸と実弥の視線に気づくと、柚充がバツの悪そうな顔をした伊之助の手を引いてやってくる。
「実弥様!お水ありがとうございます!」
「今回は勝てたみてェだが、
甘く見てっと足元救われるぞ」
実弥は一言、そう言うと部屋へと戻っていった。
「えー。少しくらい褒めてよー
その方が私伸びるよー」
口を尖らせて呟く柚充と反対に伊之助は元気取り戻す。
「ほら見たことが!俺の方がすげぇんだ!!
伸び伸びすげーんだかんな!」
「またそうやって覚えたばっかりの言葉使いたがる…」
「うっせー。寝太郎はまず起きて戦える様になれ。
まぁ俺様が1番強ぇけどな!」
自信満々の伊之助に勝ったはずの柚充がなぜか慌て始めた。
「わっ!私だって!これからも伊之助に
負けるつもりなんて無いんだから!!」
また伊之助と柚充の言い争いが始まる。
善逸が実弥に問おうとした事。
"柚充ちゃんに刀を取らせて平気なのか"
しかしそれは問うまでもなく、音と柚充を見る顔で察しがついてしまった。
口に出さなくてよかったと思わずにはいられない善逸だった。
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